3.　透視図を作っていこう！

3.1　変換方法の概略

　今までは，視覚的な話をしてきましたが，透視図をつくる方法について，もう少し具体的に考えていきます．

　『変換方法』って何のための？と思っている人もいることでしょう．少し説明しておきます．“透視図”を画面に出力させるには，ちょっとした工夫が必要になることは先に学びましたね．その工夫というのは，これから説明していく視野変換や透視変換のことなのですが，大まかに言うと，それは，２次元の平面（ディスプレイ）に3次元の立体を表示するということです．その順序は，次のようになります．

①視野変換（viewing transformation）: 　3次元空間での立体の座標をワールド座標系(world coordinates system)から，いわゆる視点座標系(eye coordinates system)に変換すること．

②透視変換（perspective transformation）: 　3次元空間での視点座標系(eye coordinates system)から，画面表示のための2次元へのスクリーン座標系(screen coordinates system)に変換すること.

これらの二つの変換を行って，始めて画面に“透視図”を出力することが出来るのです．

3.2　変換の前に．．．

　　3.2.1　同次座標

　先に述べた2つの変換をする前に，変換時に用いる『同次座標』について，少し知っておきましょう．今まで使ってきた(x,y,z)という座標表示のことを，ここでは通常座標表示と呼びます．しかし，透視図を作成するにあたって，この通常座標を用いて視野変換などの変換を行うのは，*計算上大変なので，同次座標という考え方を用いてそれらの変換を行います．この同次座標を用いると，変換は行列によって求めることができるという利点があるのです．

　同次座標表示とは，一般に2次元の座標を3次元の座標で表現すること（n次元のベクトルをn+1次元のベクトルで表現すること）を言います．その表現方法を見ていきましょう．

通常座標　　　　　　　　　　同次座標　　(x,y,z)　　　　⇔　　　　[X　Y　Z　w]

　このように，同次座標表示の際，重みと呼ばれるwが付加されます．この同次座標表示においては，カンマは必要ありません．又，これらには，次のような関係があります．

　　　　・・・・・（1）

　ここで式( 1 )から，は，w=0になり得ないことが分かります．　この同次座標を用いることによって，立体の回転や平行移動，拡大・縮小，せん断等の処理をするための透視変換（透視図）などが，行列で簡単に表すことができるのです．ここでその行列は，4次とします． *視野変換にしても透視変換にしても，計算上ではすべて行列を使います．行列を使うことによって，計算の間違いや0を用いた計算にも都合が良いのです．

　　　3.2.2　射影変換

　透視図を作成するにあたっては，3次元でのデータを2次元のデータとして変換すれば良いのです．このように，3次元のデータを2次元の表示用データへ変換する変換方法を，射影変換と言います．つまり，3次元空間での，立体の多くの点P(x,y,z)を描くことによって透視図を作成する場合には，図上での射影点P'(x',y',z')が必要になってくると言うことです．どういう意味かというと，3次元における点Pのワールド座標(x,y,z)から，射影された2次元の点P'のスクリーン座標(x',y',z')が得られなければならないということです．その射影変換をするために，これから説明する2つの変換をマスターしましょう！

　3.3　視野変換について

　3.1の変換方法の概略では，3次元空間での立体の座標をワールド座標系から，いわゆる視点座標系に変換するという，視野変換をまず第1にすることを学びましたね．3.2でも勉強したようにこの変換は，4次の行列で考えます．

　　　　・・・・・（2）

結局のところ，xwywzw座標系を，いかにしてxeyeze座標系にするかを考えれば良い訳ですね．つまり言葉にすれば，このいかにしてと言う過程を単一な変換の繰り返しに分割して，個々の変換とは逆向きに同量だけ図形を変換する行列を，順次左から右に並べてそれらを乗じてやれば，求めたい変換行列Tvが得られると言う訳です．どうですか？－－分かりましたか？－－ちょっと分かりにくいですか？－－－とにかく，順を追って一緒に考えていきましょう．

**目の位置（カメラでいうレンズ）のこと．
***目の位置（レンズ）が向いている方向の基準点のこと．

　　　　・・・・・（3）

ここでT1は，

　　　　・・・・・（4）

となります．そして次に，x1y1z1座標系をy1軸周りに－αだけ回転してできる座標系を x2y2z2とすれば，次の式が成り立ちます．

　　　　・・・・・（5）

ここでT2は，

　　　　・・・・・（6）

となります．また，ここでのcosαやsinαは，視点Pf(xf,yf,zf)・注視点Pa(xa,ya,za) に依存します．それらの関係式は，次のようになります．

　　　　・・・・・（7）

　　　　・・・・・（8）

また，y2軸はyeze面上にあり，ye軸と角度をなしています．そして次に，x2y2z2座標系をx2軸の回りに－βだけ回転させてみましょう．そこでできた座標系をx3y3z3とすれば，次の式が成り立ちます．

　　　　・・・・・（9）

ここでT3は，

　　　　・・・・・（10）

となります．また，ここでも同様に，cosβやsinβは，視点Pf(xf,yf,zf)・注視点 Pa(xa,ya,za)に依存します．それらの関係式は，次のようになります．

　　　　・・・・・（11）

　　　　・・・・・（12）

　ここで，今までの過程を振り返ってみると，まず，ワールド座標系からx1y1z1座標系へ変換し，そのx1y1z1座標系から次はx2y2z2座標系へ，そしてx3y3z3座標系へと変換してきました．これらの過程は，これから行う変換の為に必要な変換なのです．

　　　　・・・・・（13）

ここでThは，

　　　　・・・・・（14）

となります．

　　　　・・・・・（15）

となります．つまり，

　　　　・・・・・（16）

となり,次の値が変換行列Tvとなります．

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　・・・・・（17）

　この式（17）を式（2）[xw　yw　zw　1]・Tv＝[xe　ye　ze　1]の中のTvに代入すると，視野変換が行われることが分かりますね．

　これまでの過程において，はじめてワールド座標系から視点座標系への変換が可能になるのです．

図3．ワールド座標系から視点座標系への変換

　3.4　透視変換について

　　　　・・・・・（18）

式（18）のように仮定すると，以下の計算によって透視変換ができるのです．

　　　　・・・・・（19）

こうして求められた[X*　Y*　Z*　ω*] が，透視変換された座標値となります．この透視変換された値は，今後立体の回転や移動の時に必要不可欠になってくる値です．では最後スクリーン座標に変換しましょう．ここで，式（19）に関してもう少し考えていきます．

　　　　・・・・・（20）

　　　　・・・・・（21）

　　　　・・・・・（22）

となり，これら3つの関係式が成り立ちます．図4にその関係を示します．

　この図4において，z軸上の原点からhなる点Eに眼をおいて，xy平面の後方，つまり，zの値がマイナスの領域にある，物体上の点P(x,　y,　z) に至る視線を考えて見ましょう．そして，この視線がxy平面によって切断される点を，P*　(x*,　y*,　0) とします．

図4．スクリーン座標と透視変換の関係

　　　　・・・・・（23）

　　　　・・・・・（24）

　　　　・・・・・（25）

　物体上の全ての点に対して式 (23),(24)の演算を施して得られるx*，y*の図形は，3次元で透視変換した立体を，2次元平面（ディスプレイ）に表示した図形となります．つまり，これがスクリーンに表示された，私たちが求めていた透視図と呼ばれるのです．

　以上が基本的な，透視図をパーソナルコンピュータに理解させ，表示させる方法です．