禁制光検出による近接場蛍光分光測定


[目的]  近接場は物質表面のごく近い領域に存在する電磁場のことであり、伝播しない点が普通の光と異なる。従って、光の分散関係式に縛られず、より高い波数を用うるため、回折限界を超える分解能を持つ光学顕微鏡が実現可能となる。これは、超高密度光記録への応用も可能であり、今後この分野の発展が期待されています。この研究では近接場の一種であるエバネッセント場による蛍光の測定を目的とし、平行光学系の対物レンズを使って試料から出る近接場蛍光を通常の蛍光と分離して測定します。


 図1は測定に使った顕微鏡の対物レンズを拡大したものです。全反射領域に光を入れたとき、カバーガラス下面で全反射を起こします。全反射が起こる入射角度はスネルの法則からθc>42°となります。この領域を全反射領域と呼びます。ここに光を入れた時、カバーガラスの下にエバネッセント場と呼ばれる近接場の一種がしみだしています。このエバネッセント場は界面の面内方向には伝搬していますが、垂直方向には界面近くに局在しているので、カバーガラスに密着している試料の界面のみが励起され、蛍光を放出します。この蛍光は遠視野場領域だけでなく禁制光領域にも観測されることが報告されています。禁制光領域は部屋の明かりなどの通常光が入ってこれない領域で、近接場蛍光が何らかの異物等により散乱されて遠視野場光に変換された場合に限り、観測できると考えられます。対物レンズには平行光学系のレンズを使っているので、近接場起源の禁制光と遠視野光の出射角度による分離を半径方向の位置による分離に置き換えることが可能となります。理論上、開口数>1のドーナッツ型領域を禁制光領域として、近接場測定が可能となります。
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 図2はメタルハライドランプで測定した時の配置図です。いきなりNd/YAGレーザーを用いて測定を行うとレーザー専用のステージや、レーザーダイクロイックミラー用の固定台を作成する必要があったので、最初にメタルハライドランプ光源を使用しました。リキッドファイバーは中に液体の入った特殊なファイバーでメタルハライドランプ用のファイバーです。この中を光が通り、ローダミン6Gにあたり蛍光します。この蛍光を蛍光ブロックで反射させ分離し、顕微鏡の上から出てきた光をマルチモードファイバーを通して分光器に入れます。分光器から出てきたスペクトルをCCDカメラで撮影し、パソコンに取り込んでグラフ表示させました。





 次にスペクトルの表示をより正確に表示させるためにCCDカメラで撮影した部分の不要な部分をカットしてスペクトル表示させるプログラムを使いました。また、右図は蛍光ブロックの拡大図です。右上に書いているデータを元に実際にその値でカットされているか調べる事によって蛍光スペクトルが正しく表示されていることを確かめました。左上のグラフはブルーのダイクロイックミラーの時です。カット域が510nm付近にあり、蛍光のピークは570nm付近にあるのでスペクトルがそのまま出ています。左下のグラフはカット域が580nm付近なので、蛍光のピーク付近でカットされているのが分かります。
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 図4は先の実験を、光源をNd/YAGレーザーに変えて横から入れるように変えて測定を行いました。この実験は前の測定と同じ操作でスペクトルの測定を行いましたが、この段階ではまだ、蛍光が弱すぎてスペクトルを撮影することができなかったので、上から出てきた蛍光をAPDで測定し、オシロスコープで表示しました。CH1がその波形です。レーザーを直接試料に当てているので近接場蛍光ではありませんが、試料の蛍光が出てきているのがわかります。





 図5に全反射を起こさせる位置に細いコリメート光を入射できるかどうかテストする予備実験の配置図を示します。まず、ND/YAG Laser をファイバーポジショナー1を用いてSINGLEMODE FIBERに入れ、出てくるレーザー光を非球面レンズで平行な直径0.2mmのレーザー光に調節する必要があります。そのため、コリメート装置を横置きにしてレーザー光を水平に出させるようにし、ファイバーボジショナーで非球面レンズの中心に入射するように移動させコリメート光を作ります。
 作成したコリメート光を油浸レンズにより瞳径内に入れ、下方への透過光をPDで測定しました。コリメート光をステージで右上図のように瞳径内をXY軸方向に動かしました。この時、瞳径内であるのに突然透過光が出てこなくなりました。 油浸レンズまでの間に障害物がないことやコリメート光の移動距離が油浸レンズのNA=1の直径にほぼ同じことから、全反射角(禁制光)の領域にレーザー光が来ていて、透過光がなくなったと考えられます。 このようなことから全反射角(禁制光)の領域があるかを、この実験によって確かめました。
 以前との改良点は、レーザー光を平行にするための装置を換えました。 以前の装置では、レンズの固定方法が不完全でしかもレンズが斜めに固定されていたことや、焦点位置やレンズの中心位置が、高精度に位置を変えられないため完全なコリメート光ができませんでした。今回は、ファイバーポジッショナーを使用することによって改善しました。右下図に示すようにレーザー光の太さは、非球面レンズの焦点距離や非球面レンズによって変わってきますが、今回用いてる非球面レンズではレーザー光が0.20mmの平行光に成りました。
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 図6(a)(b)(c)に示すように 測定理論ではレーザー光の幅が無いものと考えると(a)のようになり下方への透過光の移動距離がレンズの直径と考えられます。実際はレーザー光には幅があるため(b)のように成ります。下方への透過光の量が、約半分の時レーザー光の中心に来ると考えられます。しかし、(c)のようにレンズ内で透過強度が入射角によって変化するのでレーザー光の中心は半分より下に成ります。
 右の図は、レーザー光を1、2、3と油浸レンズに入れると図のように、油浸レンズから下方へ透過光し出ていきます。この事は、角度の情報を位置の情報に置き直してることがわかります。
 この実験に使用してる油浸レンズは、NAが1.3で直径が4.00mmであることから、遠視野場領域はNAが1.0で直径が3.08mmである事がわかりました。このことから全反射領域が両端に約0.5mmある事がわかり、実験結果が遠視野場領域の3.08mmより小さい場合、全反射角(禁制光)の領域があると考えられます。また、この領域が少ないため平行なレーザー光を細くする必要がありました。





 ステージでY軸を移動させ下方への透過光をPDで測定した結果を図7(a)に、X軸を移動させ下方への透過光をPDで測定した結果を図7(b)に示します。図7(a)結果から、ABの点が右下図のAB点なので、この距離の半分の位置でY軸を固定し、X軸を移動させました。
 図7(b)結果から、CDの点が右下図のCDの点だと考えられます。CDの点の距離の半分がレンズの中心と考えられ、この幅が遠視野場領域と考えられます。しかし、今回実験では2.08mmあまりしか有りませんでした。このことの理由として、ステージをネジなどで固定していないため移動させるときにステージごとう動いたと考えられます。このため次に固定する箱を作製しました。
 ステージを固定する箱を作製し前回と同じ全反射確認実験をした結果。前回の結果では、遠視野場領域が2.08mmと理論値と約1.00mmと差がでてしまいまいたが、今回3.00mmと理論値に近い値がでました。よって、ステージを固定することによって既決しました
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 図8に蛍光測定配置図を示します。この実験では、レーザー光で蛍光ビーズを励起して出てくる蛍光が弱いため光ファイバーに入れAPDで測定することが出来るか、またレーザー光を移動させ全反射領域に持っていき、出てくる蛍光が観測出来るか、を課題にして実験しました。
 先ほどの実験と違う点は、レーザー光をダイクロイックミラーで90度下にして油浸レンズに入れ、蛍光ビーズを励起させ,出てくる蛍光を対物レンズでしぼりMULTIMODE FIBERに入れ、APD(アバランシェ・フォトダイオード)で測定しました。
今回もこのステージとダイクロイックミラーに付いてるステージを動かして油浸レンズから下方への透過光をPDで、励起されて出てくる蛍光をAPDで測定しました。
 上に出てくる光が、蛍光ビーズからの蛍光かレーザー光かがAPDでは判らないため、PDでレーザー光と蛍光の緩和時間違いを用いて確かめ、出てくる蛍光を分光器でスペクトルにしてCCDで撮影して測定しました。





 蛍光測定結果を図9に示します。右上のグラフはレーザー光がレンズの直径を移動していると考えられ、測定値での遠視野場領域の幅が理論値よりも少ない理由としてPDと油浸レンズの間にNDフィルターをはさんでるためと考えられます。測定値からレンズの中心がわかるため理論値の遠視野場領域約3.05mm以上の幅で出てる蛍光は、蛍光ビーズが直接レーザー光で励起されてるのではなく、レーザー光が全反射領域に来ていて、カバーガラスの下に発生したエバネッセント場によって、励起された蛍光だと考えられます。
 この光がレーザー光で無いことの証明としてレーザー光と蛍光の緩和時間違いを左下のグラフに示します。APDでは緩和時間の比較が出来ないためPDに取り替えました。最大値の1/2の点ではレーザー光は、30ns蛍光では70nsと40ns遅い事からレーザー光出ないこてか証明されました。また出てきた光が蛍光であることを確かめるため分光器でスペクトルに分け、CCDで撮影し、結果を右下のグラフに示します。蛍光スペクトルから測定してる光が蛍光である事がわかります。エバネッセント場励起の蛍光付近では蛍光が弱くこのどちらでも測定することができませんでした。
 測定することができれば次に、エバネッセント場励起の蛍光には遠視野場光も含まれてるため遠視野場領域の光をカットするマスクを作製し測定できると(右上図)、エバネッセント場励起の近接場蛍光測定になると考えています。
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