冷却CCDカメラを用いた近接場蛍光スペクトル測定とグラフ表示


[目的]  近接場励起による試料の蛍光スペクトルを観測するため、CCDカメラの画像デ−タを取り出しスペクトルをグラフ化するプログラム及び周辺装置の作製。


 近接場により励起した試料の蛍光を分光器に入れ、CCDカメラでスペクトルを観測する。
 近接場励起による蛍光は非常に微弱なため、通常のスペクトル観測用のCCDでは感度が低く、スペクトルを観測することが出来ない。そこで、通常のCCDよりも高感度な天体観測用の冷却CCDカメラを用いてスペクトルの観測を行う。本実験では武藤工業のCV-04Uを使用する。このCCDは天体観測用で非常に感度が高く、又冷却装置を備えているためノイズを低く抑えることが出来るため、近接場励起による微弱な蛍光スペクトルの観測が可能であると推測される。
 しかし、このCCDカメラは天体観測用であるため、通常のスペクトル観測用CCDの様にスペクトルをグラフとして表示する事が出来ない。そこで、CCDの画像情報を取り出し、この情報を基にしてグラフを描画するプログラム及び周辺装置を作製する。

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 画像情報を取り出すにあたって、まずCCDとパソコンの間でどのようにしてデ−タの受け渡しをしているのかを把握しなければならない。幸い武藤工業よりMutoh CCD Masterの内部資料を提供してもらうことが出来たので、この資料をもとにCCD、パソコン間のハンドシェ−クについて調べる。
 内部資料によると、CCDコントロ−ラ、パソコン間のハンドシェ−クにはパラレルポ−トの標準で17本ある信号線のうち、Strobe、Ack(Acknowledge)、AutoLF(Automatic line feeds)、Init(Initialized printer Reset)、及びData(Data bit 0〜7)の計12本を使用しており、それぞれの信号線の役割は以下の通りである。

○Strobe
 パソコンからCCDへのデ−タ転送時にトリガパルスとして使用される。  CCDはデ−タを受け取るとAckを返す。
○Ack(Acknowledge)
 CCDからパソコンへのデ−タ転送時のトリガ。
 パソコンはデ−タを受け取るとStrobeを返す。
○AutoLF(Automatic line feeds)
 デ−タ転送方向の指定。(1 : PC→CCD 0 : CCD→PC)
○Init(Initialized printer Reset)
 イニシャルリセット。
○Data(Data bit 0〜7)
 デ−タ線(8本)。標準通り。

 本研究では上記の信号線12本のうち、画像情報取得に特に必要と思われるStrobe信号線、Ack信号線、及びData信号線(0〜7)について分岐コネクタより取り出し、グラフの作成を行う。
≪実験≫
まず、CCDコントロ−ラとCCD制御用PC間のやり取りを確認するため、パラレルポ−ト上に設けた分岐コネクタよりStrobe線とData線(0〜6の7本)の計8本を取り出しデ−タレコ−ダにつなぐ。
デ−タレコ−ダは最大16本のデジタル信号を同時に観測出来るものである。今回はそのうち8本のみを使用する。






 Ack信号や他の信号線についても同様に確認作業を行った結果、CCD、パソコン間のハンドシェ−クは以下の3種類に分類出来る事が確認でき、内部資料の説明とも一致した。

@PCからCCDへデ−タ転送
 右図は、パソコンからCCDへのデ−タを転送する場合の、ハンドシェ−クのイメ−ジ図である。
 Strobe信号の立ち下がりエッジがトリガとして使用されている。Ack信号はCCDからの返答として使用される。転送されるデ−タは8ビットである。

ACCDからPCへデ−タ転送
 次に、CCDからパソコンへのデ−タ転送のイメ−ジを図に示す。
 Ack信号の立ち下がりエッジがトリガとして使用され、パソコンからの返答にはStrobe信号が使用される。
 転送されるデ−タは8ビットである。

B画像情報の転送
 CCDの画像情報の転送には上記@Aとは異なったハンドシェ−クが使用される。大量の画像デ−タを短時間に転送するため、Ack信号の立ち下がり、立ち上がり両エッジをトリガとして使用するダブルデ−タレ−ト(以下DDR)方式となる。
 転送されるデ−タは立ち下がりと立ち上がりを合わせた16ビットとなる。

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 次に、パソコンを用いて取り出したデ−タの解読を試みる。
 デ−タ解読用のパソコンにはPC-98を使用する。
 パラレルポ−トに設けた分岐コネクタよりStrobe、Ack、Data0〜7を取り出し、PC-98のデジタルI/Oボ−ドより取り込んでデ−タを調べる。デ−タ読み込みのタイミングはStrobe信号の立ち下がりをトリガとして読み込みを行う。
 読み込んだデ−タは一覧にし、テキストファイルとして保存する。






 内部資料によるとデ−タは全てStrobeかAckのどちらかをトリガとして送られているはずであるが、StrobeとAckのどちらに同期させても読めない部分が存在する。そこで、読み込んだデ−タ8ビット全てが0の場合、時間を遅らせて再度読み込みを行うようにプログラムを変更する。これによって全てのデ−タを読み込むことが可能となった。
 デ−タのやり取りは内部資料の通り、アスキ−コ−ドで行われている。カタカナの”ロ”はCCDが命令待ちの待機状態であることを表す記号で、同様に”¥r”はリタ−ン、”¥n”は改行を表し、どちらも命令の区切りとして使われている。大文字のアルファベットは命令の種類を表し、そこから”¥r”までが一つの命令となる。スペ−スで区切られた数字はパラメ−タである。

(例1) S_2000\r
 シャッタ−時間設定:シャッタ−の開放時間を2000msに設定。

(例2) B_10_20_100_200\r
 部分画像設定:CCDの撮影範囲を決める。左上座標(10,20)〜右下座標(100,200)

(例3) N_2_3\r
 ビニング設定:複数の画素を足して、画像を圧縮する。(横方向圧縮2、縦方向圧縮3)

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 次に、CCD、パソコン間のデ−タのやり取りの中から画像情報のみを取り出すことが出来る様、プログラムを変更する。画像デ−タの転送は先の命令解読で、コマンド”U”(画像デ−タ転送要求)、”K”(画像デ−タ転送開始)の後に送られることが確認されているので、この”U”、”K”コマンドを目安に画像デ−タの読み込みを開始する。読み込みはAck信号の立ち下がり、立ち上がりの双方で行い、内部資料に基づいて8ビットのデ−タを2つ繋ぎ合わせて16ビットの画像デ−タを生成する(図8参照)。この画像デ−タが、CCDカメラの画素一点一点の明るさを示す数値であり、符号なしの16ビットなので0〜65535のデジタル値で表現されている。





 画像情報の取り出しが可能となったので、次に、取り出した画像情報を基にグラフを描画するプログラムを作成するためPC-98からWindowsマシンに移行する。
 まずPC-98の時と同様にプログラムを書いて走らせるが、定期的にデ−タの読みこぼしが発生してしまう。これはWindowsのマルチタスクの影響で、一定時間ごとにプログラムの処理が中断しているためと考えられる。この問題を解決するため、デジタルI/Oボ−ドにPCI-7200を使用する。PCI-7200デジタルI/Oボ−ドはDMA転送の機能を有しており、バックグラウンド処理により読み込んだデ−タをDMA転送で直接メモリ上に書き込むため、プログラム中にデ−タを読み込むためのコ−ドを記述する必要がない。このため、Windowsの干渉でプログラムが停止している間でもボ−ドの読み込みは止まらずに続行され、デ−タを読みこぼすことがない。PCI-7200は、この機能を使い最大2MHzまでの読み込みが可能である。
 PCI-7200デジタルI/Oボ−ドのDMA転送機能を使用すると、デ−タの読み込みがバックグラウンド処理となるため、読み込みのタイミングをプログラムで制御することが出来ない。そのため読み込みのタイミングを決めるトリガはボ−ドの内部タイマ−と、外部トリガ入力(I_REQ)の二種類が用意されており、このうちどちらか一方を使用する。本研究では外部トリガ入力(I_REQ)を使用する。

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 しかし、外部トリガでの読み込みはトリガパルスの立ち上がりか立ち下がりかのどちらか一方でしか行えないため、DDR方式で送られて来る画像デ−タを全て読み取る事が出来ない。そこで、外部トリガをDDRに対応させるために、Strobe信号とAck信号のEX-ORを取ったものをトリガパルスとして使用する。これにより、Ack信号の立ち下がりと立ち上がりを、両方とも立ち上がりにそろえることが出来る。これにより、全ての画像デ−タを読みこぼしなく取り出すことが出来るようになった。






 分光器に蛍光灯の光を入れスペクトルを撮影したものと、それをCCDcapture.exeでグラフに変換したものである。図は分光器のグレ−ティングをそれぞれ600[l/mm]、150[l/mm]としている。@、Aの位置に大きなピ−クが見られ、これは水銀のスペクトルのピ−クとも一致した。横に水銀のスペクトルの一部を示す。

結果
 CCDカメラの画像情報を取り出しグラフ化するプログラム及び周辺装置は、一応の測定が行える状態まで達した。しかし、実際の近接場励起による微弱な蛍光スペクトルを測定するためには、さらなるプログラムの改良とCCD及び分光器の調整が必要と思われる。

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