広範囲の波長に対応できる光ファイバー偏光素子の製作


[目的]  現在LSIの内部を近接場光学顕微鏡で見てみると、LSIのチップの幅は1995年では5mm、今ではわずか3mmまでとなっている。LSIの内部配線の太さは今では、0.18μmであり今後は0.13μmになりつつある。現在の技術では、ICの信号がどれか一つでも故障すると何故どこが故障したか分からず、新しいICと交換することしかできなかった。近い将来この近接場光学が物になれば結晶内の局所的な分布をナノメートルスケールで調べることができ、未知の故障度が分かり、より一層小型化への道が開けます。
 今測定したい試料の単結晶の境目ではいったい何が起こっているのか?試料の境目を知るためにプローブより直線偏光を出し、その偏光方向を連続的に変化させることにより、偏光が分子の遷移モーメントの向きと一致した時、光の吸収等から試料中試料中の遷移モーメントの向きとその分布を見ることができます。
 そのために我々偏光子班は既製品の光ファイバー偏光素子ではファイバーのループの直径を自由に変えることができないため、ファイバーの直径を自由に変えられるように光ファイバー偏光素子の器具を製作しました。ファイバーの直径を自由に変えられるようにし、器具を起こしたり、倒したりするこので任意の直線偏光を導き出すことが出来ます。
 このよう偏光方向を連続的に変化させることで、今はNd/YAGレーザーを使用していますが、他の波長にも対応できるため、広範囲の波長にも対応できます。


 図1は完成予想図です。まず、全体の流れを説明します。Nd/YAG Laser(λ=532nm)から出た光が強いのでNDフィルターで光を弱め対物レンズ(×20)で光を絞り、光ファイバーのコアに光を入れ、光ファイバー偏光素子に通します。そして、一つ目のループの光ファイバー偏光素子(1/2波長板と同様の効果を持つ)を用いて入射光の偏光方向を任意の方向に変化させます。次の二つ目のループの光ファイバー偏光素子(位相補償板)は、この偏光素子以降の光ファイバーの経路(曲がり、ねじれ等)、光プロープの性質などから位相にズレが生じ、直線偏光でなくなっている可能性があるので、事前に同量の位相ズレを持たし(1.ループの直径を変える・2.固定具を倒したり、起こしたりする・3.固定具に付いているステージを左右に動かす)効果を打ち消します。この光ファイバー偏光素子部で任意の偏光方向の直線偏光をつくります。 
 光ファイバー偏光素子から出た直線偏光は、双方向光ファイバーカップラー(左の信号を右に通し、右の信号を左に通す)で光を分岐して光を通し、一方はPDで検出しオシロスコープへ、もう一方は光プローブから直線偏光を試料に当て、試料中の結晶の境目を調べます。試料とぶつかった光は赤矢印で示したようにまた双方向光ファイバーカップラーを通り、パルスモーターで偏光板を回し、分光器でスペクトルを測り、CCDカメラでスペクトルを撮ってA/D変換し、PCで制御します。
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 図2は実際のイメージ図です。試料中には、遷移モーメントという向きがあり、今この部分でプローブから出た直線偏光が赤で示された方向であれば、試料中の遷移モーメントの向きに合うように当てるためθだけ直線偏光を回転させると試料中の遷移モーメントの向きと一致します。
 このように、直線偏光が遷移モーメントの向きと一致する時、分子の吸収が最大で強い吸収が起こり、蛍光も最も強くなります。Nd/YAGレーザーの光は偏光しているので光ファイバーの巻き方を調節すれば偏光の角も曲がるので、未知試料の遷移モーメントの向きと分布が分かります。





 図3は、光ファイバーの屈折率関係を示します。光をファイバーに入れた時、本来光ファイバーの断面形状を見ると青矢印で示されたように、縦方向にも横方向に屈折率がn0と変わりません。また、波長もλ0と変わりません。しかし、ファイバーをループすると今の場合、上からの応力がかかることで密度が大きくなり、赤矢印で示されたように縦方向の屈折率が大きくなりneとなります。波長は次式から屈折率が大きくなると、波長が遅れるということが分かります。この時、横方向の屈折率は青矢印で示されたように前の状態と同じで波長、屈折率とも変わりません。
 我々は、このようにファイバーを曲げることで位相にズレが生じることを利用して偏光方向を変えることを実験しました。
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 市販されている波長板は円の直径が決まっており巻き数を1、
2、3,...としか変えられず巻き数に合ったレ−ザ−波長、数種類にしか使用できないので、私達は広範囲のレ−ザ−の波長に対応できる偏光素子を作製するために光ファイバ−の曲げ方を連続的に変えられる光ファイバ−偏光素子を作ろうと考えました。(真円である必要はない。) 曲げ方として光ファイバ−を押しこんだり引き出したりして大まかに調整後、固定具に付けたステ−ジで微調整します。私達は、固定具を金属から加工して作りました。設計上のポイントは、(1)光ファイバ−を硬い保護チュ−ブに通した後、両端で保持することと、(2)光ファイバ−の両端が一直線上になるようにし、しかもこの直線を回転軸として固定板ごと巻いた光ファイバ−を傾けられるようにすることです。光ファイバ−の曲げ方を変えながら出射光を偏光板に通し直線偏光を探します。そのために偏光板をモ−タ−で回転させることによりレ−ザ−から連続発振された出射光がランダムな偏光角度にあたり、例えば0.1秒間にぴったり30度回転するようなことはなく30.3度などとずれるため、一周すると元の偏光方向には戻らず、少しずつずれてゆくので偏光板を何回転もさせるとほぼすべての偏光方向に対する光出力を検出することができると期待できます。このようにしてレ−ザ−の128パルスに対する測定結果をオシロスコ−プに重ね書きして表示させました。
 実験を行うにあたり自分たちでNd/YAGレ−ザ−の光を光ファイバ−に入射するよう合わせたり出射光が検出器にあたるようにレンズを用いてしぼったりしました。また、大まかに光ファイバ−を押しこんだり引き出したりするとき、光ファイバ−が動いた分検出器などを移動させ光がずれると再度入れ直し、オシロスコ−プを見て直線偏光に一番近づくまでやります。これは、簡単にできるものではなく妥協せずにやると何日もかかります。






■縦4.5cm、横4cmの1巻
 オシロスコ−プで出射光がほぼすべての偏光方向を通ったときの光出力をすべて重ね書きして表示しています。例えばオシロスコ−プのエンベロ−プ機能を用いて128パルスの光出力を重ね書きして表示させた場合Nd/YAGレ−ザ−は1秒間に最大15回しかレ−ザ−発振できないので次の光出力の変化を見るまで約9秒かかりました。
 この図より出射光と偏光板の偏光方向が同じ時、出力電圧が最大となり出射光の偏光方向に対して偏光板の偏光方向が90度ずれ交錯したとき出力電圧が最小になります。また、出力電圧の最小が0に近いほど直線偏光に近づきます。
 また今回用いた偏光板は縦の偏光方向にした時、横の偏光方向も全体の光のごくわずか通すので完全な直線偏光にならないのである。
 実験結果より出力電圧の最大と最小の値から比を求めた結果、縦偏光と横偏光の比が250:1の直線偏光であることがわかりました。これは今まで実験したなかで一番良い結果であり、比から見ても完成度が高いと考えます。また、これを完全な直線偏光と考えると、偏光板の偏光が縦方向のとき横方向の偏光が全体の光の0.4%しか通っていないことがわかります。

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 次に未知試料に直線偏光をあて偏光方向を任意の向きに変え、未知試料の分子の向きを調べるための予備実験として1/2波長板の役割をする光ファイバ−偏光素子を作製することにしました。そこでNd/YAGレ−ザ−の光が70:1の比以上の直線偏光であったので1段めの1/4波長板を省略し、先と同様に光ファイバ−を円状に巻き固定板に取りつけ、この偏光素子を傾けたとき出てくる直線偏光の偏光方向が傾けた角度の2倍回転するように曲げ方を調整しました。具体的には固定板を45度傾け、出てくる光が水平方向の偏光となるような曲げ方を探すことになります。でも通常は出てくる光は主に鉛直方向に偏光しているか、固定板の方向に偏光しているはずで、水平方向の偏光はなかなか見つからないと思われます。従って、最初は固定板を45度傾けた状態で出てくる鉛直方向の偏光が減少するような曲げ方を大ざっぱに探しました。この状態で水平方向の偏光が出てくるか、さらに増大するかを調べ、水平方向の偏光が最大になった後、次に偏光素子が1/2波長板の役割をするかどうか確かめました。






■縦4cm、横3.5cmの2巻
 詳しく実験デ−タを取ってグラフ化したものを説明します。
 偏光板の向きと波長板の向きは検出器から見た方向です。波長板の向きが90度のとき偏光板の向きが-55度で直線偏光となりこの値を基準値0度としました。
 グラフより波長板を基準値0度から40度傾けると直線偏光でなくなり、偏光板の角度を0度から80度に回転させると直線偏光に戻りました。よって直線偏光の偏光方向が2倍回転して出ている事がわかりました。 また、このグラフから縦に偏光する直線偏光を作り出すには偏光板の向きが基準値から35度プラスにしたところが偏光方向が縦になっており波長板の向きを基準値から17.5度プラスに傾けると得られる事がわかりました。よって横に偏光する直線偏光は縦に偏光すろ直線偏光と90度違うので波長板の向きを17.5度から45度たした、すなわち基準値から62.5度プラスに傾けると得られることがわかりました。

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 1/2波長板の効果を持つ光ファイバー偏光素子を用いた液晶の配向方向の測定について説明します。この実験を行なったのは、最終の測定と同様に、任意の偏光方向の光で、試料中の分子の向きを測定するものなので、これを用いて今回作製した光ファイバー偏光素子が、この種の測定に使えるか判断するためです。また試料に液晶を用いたのは、他の試料に較べ分子の向きが揃っており、今回の目的に対して適当であると判断したためです。
 次にこの測定に使用した液晶について、これは、NESAガラス(薄く金属蒸着したガラス)の蒸着面にラビング法を用いて縦方向にラビング(擦る)し、同様に横方向にラビングした物の間に0.01mmのフィルムを挟みそれをガイドに液晶(メルク社ZLI-1132)を流し込み製作しました。このため、液晶の分子は、おおよそ90度から0度に配向していると考えられます。
 測定方法は、2種類行いました。まず検光子(偏光板)の向きを0度に固定し光ファイバー偏光素子の傾きを変化させ、出力を測定しました。次に光ファイバー偏光素子を固定し、検光子の向きを変え出力を測定しました。結果は、次の図に示します。





 図9は、縦軸に出力電圧、横軸に光ファイバー偏光素子の傾きを示しています。
 光ファイバー偏光素子の傾きが、30度の時に出力が最大になっています。この時液晶に入射した光の偏光方向は、先の図7より60度と考えられます。これにより液晶の入射側の分子の向きが60度と考えられます。また最大から最小までの横軸の変化も約45度であり(入射光は、1/2波長板の効果で90度変化している)、全体の変化も常識的と思われます。
 図10は、縦軸に出力電圧、横軸に検光子の向きを示したものである。この時光ファイバー偏光素子の向きは、先程の最大値を取った30度に固定しています。検光子の向きが、−15度の時に最大である事から液晶の出射側の分子の向きは−15度と考えられます。又こちらもピーク間が、約90度であり全体的にデータにも異常が無いと思われます。
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 以上の事より今回使用した液晶は、入射側から見て60度から-15度まで配向していた事が解りました。このズレが、生じた原因として(1)レーザーの出力が、大きく揺らいでいるために細かくデーターが読み取れなかった。(2)液晶製作中ラビングの過程でずれた方向でラビングしてしまった。(3)測定中に液晶の固定が不十分で傾きが変化してしまった。などが考えられます。けれども、全体的に見ればこの誤差も許容範囲であり予想の結果が得られたと判断でき、今回作製した光ファイバー偏光素子が、この種の測定に対し支障をきたさない事が確認されました。しかし、精度(偏光素子自体の傾き等)や使い勝手(偏光素子の固定方法、素子部以外のファイバーの保持等)に改良が必要と思われます。