原子間力検出による近接場光学プローブの位置制御


 目的と致しましては、走査型近接場光学顕微鏡の試作を行っており、全体図(予定)は右図のようになっています。
 Nd/YAG Laserより、連続的にレーザーを出し、ファイバーカプラーにより分岐させ、一方では、レーザー強度をモニタするために、もう一方でファイバー偏光子により、試料の双極子モーメントの向きに直線偏光の向きを変えます。そして、バイモルフとピエゾスキャナというものを用いて、光プロ−ブの振動の変化から、試料⇔光プローブ間の距離を制御し、光測定を行います。
 光プローブに励起用レーザー光を導入し先端よりしみ出した近接場という電磁場で試料を光励起させ、試料より出た蛍光を光プローブに入れ、ファイバー偏光子を通し分光器に入れ、CCDで撮影することにより試料の蛍光スペクトルを得る事が出来ます。
 研究内容としては、右図の赤枠の部分をやっていまして、先鋭化光プローブの作製と試料⇔光プローブ間の位置制御について、以下に説明を簡単に記します。
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 近接場光学測定用光プローブの作製について説明します。
 左図ような装置を用いて光プローブ作製します。ピペットプラー、遅延用タイマー、CO2レーザーは市販の物を改良しながら使用しており、タイミング制御回路は光プローブ作製専用に作りました。
 まず、光ファイバーをピペットプラーに固定しておき、タイミング制御回路でCO2レーザーを予熱パルスで予熱し、励起パルスに切り換えてレーザーを発射させます。同時に遅延用タイマーをスタートさせて微妙な時間差を作ってからピペットプラーの電磁石で一気に引き千切ります。遅延用タイマーの役割は、ファイバーにレーザーが当たる瞬間とピペットプラーが引き始めるタイミングを調整できるようにするための微妙な調整を可能にするために使用しています。また、制御回路でCO2レーザーの強さを調整できるようにしています。

≪以前よりの改善点≫
 ピペットプラーのファイバーを固定する部分が改良前は、1方向から押えつけていた(左図左下の上)のですが、その場合では固定の仕方に安定性がなかったので、3方向から押えつけられる(左図左下の下)ように改良しました。その結果、ファイバーの固定が安定しました。





 実際の装置外観は、右図のようになっています。左下の装置がタイミング制御回路で、タイミング制御回路により、CO2レーザーを発射し、ピペットプラーの電磁石により光ファイバーを一瞬で引きちぎっています。
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 使用している光ファイバーは、保護膜が直径200[μm]、グラッド層が直径80[μm]、コア層が直径3.3[μm]のSINGLE MODE FIBERを使用しています。
 ファイバーを溶融延伸法で加工処理後の理想的な光プローブの先端は、直径50nmで出来るだけ短いものを作製する事を目標にしています。






 光プローブ作製の流れのイメージは、まず、光ファイバーにレーザーが当たり、熱が拡散し始めて、融解し、そしてピペットプラーで一瞬に引き千切られているのだと思われます。

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 そして、作製して出来た光プローブを光学顕微鏡で観察した結果です。これらは、ほぼ同一条件下でレーザーの強さを少しずつ変えて作成しているのにこのような違いがでました。
 (1)(2)の場合は、レーザーの強さが弱くて融解できていない状態で引き千切ったためこのように先端の無いものが出来たと考えられ、逆に(3)(4)の場合は、CO2レーザーの強さが強くて融解しすぎてから引き千切ったためこのように先端の長いものが出来たのだと考えられます。(5)は観察する前に先端をどこかにぶつけたために折れてしまったのだと思われ、(6)は、先端が多少曲がっていますが、作製条件としては良いものだと考えられます。






 そして良い作製条件だと思われる条件で作製した光プローブを、走査電子顕微鏡で観察した結果が右図のようになりました。(1)(2)は同じ倍率で、(3)(4)と順に倍率が高くなっています。(3)より先端の周りの形状は、滑らかではありませんでした。倍率の高い(4)の先端部分は不鮮明ではありますが、直径200nm程度に見えスケールとしては良いものが出来ているのではないかと思われます。

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 理想的な先鋭化光プローブができましたら、光プローブを図のように固定し回転させアルミ蒸着をさせます。膜圧は、表皮効果の関係上から約25nmで蒸着させます。そして蒸着後、プローブの先端にある余分な蒸着分を何らかの方法で削り取り光がしみ出すようにします。そして、蒸着後の光プローブを走査電子顕微鏡で観察してみた結果です。
 以上の内容より、近接場光学測定用光プローブの作製・加工を行っています。





 次に原子間力検出によるプローブ⇔試料間距離の制御について説明します。
 まず、光プローブをバイモルフに接着します。バイモルフとは、金属電極の両面にピエゾ素子が接着してあり、さらにその上から金属蒸着を施したもので、電圧をかけることにより変形する物質で、セラミックス製のピエゾ素子の一種です。バイモルフに励振正弦波を入力し、バイモルフの変形に伴い、接着された光プローブが振動します。光プローブを振動させながら試料に近づけて行くと、プローブ⇔試料間にシアフォースと呼ばれる原子間力が働き光プローブの振動がなくなっていきます。その振動の減少の具合を測ることによって、プローブ⇔試料間距離がどれだけ近づいているかが分かり、それが近接場領域への距離制御の実現に大きく関わってきます。
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 距離制御には、まずプローブ自身の共振周波数を知る必要があり、光プローブの共振周波数を同定するために周波数を変えて励振させ、振動の測定をします。しかし、バイモルフにも共振周波数が存在するのでバイモルフのみの振動を測定し、過去の測定結果は右上図のようになりました。これは、周波数0から100kHzまでの間を、0.1kHzずつ増加させた時の、バイモルフの振動の振幅と位相の関係です。次に、バイモルフに光プローブを接着した時の振動を測定した結果は、右下図のようになりました。赤枠の部分を見ると、30から45kHzの間の共振ピークで何らかの細かな変化が確認できたので、もう一度30から45kHzの間で細かく測定した結果を次に示します。





 バイモルフのみ時に周波数30から45kHzまでの間を、0.01kHzずつ増加させた結果は、左上図のようになりました。『33.43kHz』でバイモルフの最も盛んな揺れが観測されました。そして、振幅・位相を複素振幅として複素平面プロットした結果は、右上図のようになりました。同様に、バイモルフに光プローブを接着した時の結果は、左下図のようになりました。『34.25kHz』でバイモルフの最も盛んな揺れが観測され、『35.31kHz』でも振動のピークが観測されました。そして、複素平面プロットした結果は、右下図のようになり、先程のプロットに加えてもう1つの独立した円が描かれていることが分かりプローブ自身の共振周波数を同定できているのだと考えられます。また、この時、複素平面プロットが綺麗な円を描いていることから、光プローブは単振動をしていることが言えます。
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 次に、過去データと比較するために新たに測定した結果です。測定方法は、先程の方法と同じで、まず、バイモルフのみの時の結果はこのようになりました。次に、光プローブを接着した時の結果は右下図のようになりました。赤枠の部分を見ると、25から45kHzまでの間で共振ピークで何らかの細かな変化が確認できたので、もう一度25から45kHzの間で細かく測定した結果を次に示します。





 周波数を25から45kHzまで間を、0.01kHzずつ増加させた時の結果は、左上図のようになりました。『31.18kHz』と『32.33kHz』でバイモルフの盛んな揺れが観測されました。そして、複素平面プロットした結果は右上図のようになりました。
光プローブを接着した方の結果は、左下図のようになりました。『33.10kHz』でバイモルフの盛んな揺れが観測されました。そして、複素平面プロットした結果は右下図のようになりました。
 光プローブの共振周波数としては、今回の結果からは、おそらく左下図の『30.0kHz』付近の振動ピークが光プローブの揺れではないかと思われますが、厳密には分からないので、実際に光プローブを試料に接近させた時のシアフォースの変化を知る必要があります。
 バイモルフのみの時の結果の複素平面プロット(右上図)で、測定点に間隔がまばらに空いているのは、測定用プログラムの測定間隔が短すぎたため、バイモルフの振動が安定していないうちに振動を読み取っているといった事をしたためこのようになったと考えられ、また、今回の測定結果の複素平面プロットは綺麗な円を描きませんでした。原因としては、バイモルフを斜めに接着したためにこの様な結果になってしまったのだと思われます。過去データと比較しますと、これは話にならい結果になりました。しかし、この結果は、改良(下に示す4つ)するために出来た結果で、さらに考慮した上で改善していく必要があります。

≪過去データとの測定条件の違い≫
 (1)過去は、MS-DOS上での測定をしていたが、後の光測定に備えて、
   PCのスペックを考慮し、Windows上での測定に移行した。
 (2)高速走査を実現するために、バイモルフを接着する所を軽量化した。
   以前は、厚さ5mmぐらいの円盤中の平らに削った所に接着していが
   今回は、厚さ2mm(1円玉サイズ)に接着した。
 (3)接着する接着剤の量を、微量にした。
 (4)バイモルフに配線する時の半田の量を微量にした。
 ※(3)、(4)は、目で確認できるぐらい微量にした。
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 プローブの共振周波数を同定できたら、次にピエゾスキャナという物に、バイモルフに光プローブの接着されたものを固定します。ピエゾスキャナの外観は、左図の右写真のような感じになっています。ピエゾスキャナは、電圧を加えている間と変形しXYZと位置調節ができます。現在、最大200Vで6μm変位するように設計されています。
 まず、光プローブの先端を試料であるポリスチレン・ビーズに光学顕微鏡で確認しながら、おおまかに近づけていきそれからピエゾスキャナで位置制御します。この時、ピエゾスキャナが最大で6μmだけ変位するようになっている事より、おおまかに6μm以内まで試料に光プローブ先端を接近させます。






 次に、Lock-in Ampより励振正弦波をバイモルフに入力しながら光プローブを振動させて、コンピュータのD/A変換ボードからの出力を高圧増幅回路で20倍に増幅しピエゾスキャナに電圧印加しながら、光プローブの位置をナノメートル制御しました。先程の過去データの光プローブの共振周波数より、それぞれの位置において『35.31kHz』でプローブを励振し、ピエゾスキャナで試料に近づけていきました。
その過去の結果を次に示します。
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 光プローブを試料に近づけて行った結果は、このようになりました。Zが−2000nm付近で振幅は急激に減少し、位相もこれと同期して急激な変化を示しています。途中で一端、プローブを試料から遠ざけてから再び近づけたためループを描いています。ループを描くまでの急激な変化はZ方向の距離にして100nm程度であり、この距離は十分小さくプローブ⇔試料間にシアフォースという原子間力が働いた結果、プローブ振動が変化したのだと考えられます。また、逆向きにプローブを試料から遠ざけていった結果はこのようになりました。近づける場合とほぼ類似していますが、振幅と位相の変化が少しなだらかになっています。これは、プローブをポリスチレン・ビーズに押しつけすぎたために、プローブに試料の一部が付着してしまったために起こったのだと考えられます。
また、共振の変化するZ位置がずれているのは、先端部に試料が付着したのとプローブの先端が何かの拍子に折れて(削れて)しまったなどが考えられます。

今後の課題と致しましては、
(1)光プローブ作製した後で、
  先鋭化度と先端部の長さをコントロールできるように
  化学エッチング法を試みてみる。
(2)新しい光プローブとバイモルフを用いて共振測定を行い、
  過去データとの比較検討を行う。
(3)プローブ⇔試料間距離の制御を行う時の測定を
  プログラムで自動化する。






 おまけ(VisualBasicとMatlabでリアルタイム測定サンプル)
Matlabです。 Visual Basicです。

(簡単な説明)
 リアルタイムで測定値をグラフにプロットして行くといったプログラムを組みました。今回、取り上げた画像アニメーションはサンプルで作り直した低機能版です。左ウインドウがMatlabでプロットしているもので、右ウインドウがVisualBasicで測定をコントロールしているものです。右ウインドウのテキストボックスが変わるごとにMatlabにプロットコマンドを送っています。実際の中身は、VisualBasicでGPIBからデータ取得して、Visual C++ DLLで共有メモリ(Shared Memory)にデータを書き込み、MatlabのMex C DLLで先ほど書き込んだ共有メモリのデータを読み取り、Matlabの必要なプロットコマンドをM-Fileにまとめおき、Visual Basicのテキストボックスが変わるとM-Fileを実行しプロットするといった事を内部的に行っています。


 いろいろ試みた結果、以上のような方法でリアルタイム測定するプログラムになりました。実際、さらに良い方法があるかもしれません。参考までに・・・。