外部共振器による波長可変 ダイオードレーザシステムの構築


-背景-
 ナノメートルサイズの粒子構造では、一つ一つが微少に電子状態が異なるので細線化したレーザーで励起することによりこれらの一つの粒子だけを選択的に励起して調べることができる。

-目的-
 641.3nmの基本波長を持つレーザーと外部共振器を組み合わせることで波長可変レーザーシステムを構築する。




画像をクリックすると、拡大画像が新しいウインドウに表示されます。 @外部共振器とは
 レーザーダイオードから発振されるレーザー光はバンド間遷移なのでライン間遷移に比べ発光スペクトルは相当拡がることになる。
 外部共振器は左図の実線で示したグラフが、青の破線部を中心波長に持つようなレーザーのスペクトルとすると、破線で示した尖鋭なグラフのようにある波長を選択して強め取り出すものである。



画像をクリックすると、拡大画像が新しいウインドウに表示されます。 @外部共振器配置図
 レーザー光がグレーティングに当たると鏡面反射すると共に回折して、ある方向に広がっていく、このときその回折光を垂直に受けるようにミラーを置いておくとそこで反射してグレーティングへと回折光は戻っていくことになる、その回折光は同じ光路をたどりレーザーダイオードへと戻っていく。
 その戻されたレーザー光はレーザーダイオードに戻ってその波長で誘導放出を誘起する、それによりその波長を選択的に強めて取り出すことが出来る。
 このときミラーを点を中心とした円周上を移動させることで選択される波長を連続的に変えていくことが出来る。



画像をクリックすると、拡大画像が新しいウインドウに表示されます。  そのとき波長が強めあう条件は左図の式で表される。
 つまり入射光と反射光の行路差が波長の整数倍になる時であるが、このときミラーが点を中心として円周上を動くとl1が変わり、結果強められる波長が変わる事になる。
 この式よりl1が短くなると波長λは短波長側にズレ、l1が長くなると波長λは長波長側にズレると考えられる。



画像をクリックすると、拡大画像が新しいウインドウに表示されます。  実際、新たに外部共振器(図4右)を構築するに当たりこれまでの外部共振器(図4左)から変更した点を示す。
・ミラーの回転中心を変更
 今までの回転中心ではミラーを移動時に回折光がミラーに当たる点は同じでも垂直入射していなかった。回転中心を変更することにより回折光がミラーに当たる場所はずれていくが、垂直に入射するようにした。


・グレーティングの土台の磁石化
 これまでグレーティングの位置は自由に動かす事が出来なかった。磁石化することにより自在に位置を変えられるようにした。


・温度コントロールを取り付けた
 ナノメートル単位での位置制御において温度による基板の伸縮は大きな問題点であった。そこで基板温度を一定に保つことでそれを解決した。


・ゴニオメーターをモーターで動かせるようにする
 これは未実装な部分であるが、これにより精密な位置制御ならびに人の体温による基板の伸縮を抑制することが出来る。




画像をクリックすると、拡大画像が新しいウインドウに表示されます。  次に実装した温度コントローラーの回路図を示す
 温度のコントロールはまず回路左上部のブリッジ回路によって基板温度と設定温度とを比較することから始まる。
 ブリッジ回路の均衡が 設定温度>基板温度 となった場合ハイパスフィルタならびに積分回路によって一定時間で平均化された信号がMOS型トランジスタのゲートに入りヒーターのスイッチをONにする。
 それ以外の場合はヒーターのスイッチをOFFにする。
 このようにして温度コントローラーは基板の温度を一定に保っている。



画像をクリックすると、拡大画像が新しいウインドウに表示されます。  以上のようにして製作した外部共振器による波長可変ダイオードレーザーシステムが左の写真である。
 このときミラーの角度を少しずつ変えていき、共振して取り出されるレーザー光の波長を測定した。



画像をクリックすると、拡大画像が新しいウインドウに表示されます。  そのときの結果を左に示す。
 このグラフにおいて太線がレーザーダイオードの発振波長、「基本波長」とすると波長可変ダイオードレーザーシステムにより発振波長が長波長側に1.05nm、短波長側に1.15nmのずれが確認できた。
 また表よりそれはミラー・グレーティング間が広くなれば長波長側に、短くなれば短波長側に、連続的に変化していっていることがわかる。



画像をクリックすると、拡大画像が新しいウインドウに表示されます。 -今後の展望-
・ヒーターの電源をより高電圧の電源に換装する
 現在の電源ではこのヒーターを理想的に動作せせるには電圧が不足なため。


・ミラーの角度調節のためのマイクロモーターを取り付ける
 手で触れて角度調節を行うと、それだけで基盤が温度変化により伸縮してしまうため。


・近接場分光システムに組み込む事
 外部共振器の構築と動作チェックは一通り完了したといえる。今後実際にこれを用いての測定を行っていく。


・その他有効利用