2光子励起蛍光観測のための パルス発振ダイオードレーザー システムの構築


-背景-
 LD等の半導体は、不純物順位などの影響を受けてバンドギャップが空間的に異なることが知られている。また、有機物試料に色素をドープしてその構造変化を見ることで効果的に薬物による作用を観察することが出来る。
 しかし、これらの観察を従来の光学顕微鏡・蛍光顕微鏡で観察しようとしても光の回折限界により空間分解能の制限(波長の1/2が限界)を受けるので、それは不可能である。そこで用いられるのが、光を用いるものの光を空間周波数の高い近接場と呼ばれる電磁場に変換して、光の回折限界を超えた空間分解能を実現する走査型近接場顕微鏡である。
 これを用いることで上記のような試料を数100nmオーダーの空間分解能をもって観察することが出来る。




画像をクリックすると、拡大画像が新しいウインドウに表示されます。  近接場顕微鏡の利点として、光の回折限界を超えて光励起の発光など光学的測定法を適応できる。試料表面を走査し表面形状と対応部位の分光測定を同時に行える。
 2光子励起の利点として、励起確率∝光強度2なのでプローブ先端の非常に局所的な範囲のみで分光が可能。可視光を用いて紫外領域の分光が可能。
 以上、2光子励起と近接場顕微鏡を組み合わせることで数100nmの空間分解能で紫外領域の蛍光観察が可能となる。



画像をクリックすると、拡大画像が新しいウインドウに表示されます。  本研究の目的として、近接場光プローブに高出力のLD光を導入し2光子励起の蛍光観察を試みる。
 しかし、その為には高出力で安定動作でLDを駆動させる必要があるので定電圧電源回路を作製し高出力レーザーダイオードを駆動させる



画像をクリックすると、拡大画像が新しいウインドウに表示されます。  左に今回作製した定電圧電源回路の回路図を示す。この回路は、出力電圧のリップルが1mV未満・出力電流は5Aまでを目標として作製した。
 まずAC100V・1Aの商用交流電源をトランスとブリッジダイオード(B.D)を用いて全波整流する。次にローパスフィルターにより平滑化した後、パワートランジスタ(パワーTR)により電流増幅。3端子レギュレーターによりリップル低減を経て+12V・最大5Aの電源として動作する。



画像をクリックすると、拡大画像が新しいウインドウに表示されます。  作製した定電圧電源回路の動作チェックを行った。その中でまず、平滑回路以外の部分の動作チェックを行った。
 入力信号として波形発生器を用いて、オフセット電圧9.75V・0.5Vpp・周波数60Hzのノコギリ波を発生させこれを仮想的に平滑された直流電圧として、これが出力時にどれだけ振幅が減少しているかを確かめることで、回路の動作チェックを行った。
 結果は左図のオシロスコープ波形の通り。左がオシロスコープをDCカップリングで測定した場合で入力・出力ともに10V前後であることがわかる。また、右がオシロスコープをACカップリングで測定した場合で入力信号800mVppから出力信号2mVppまで減少しているのがわかり、この回路は正しく機能することがわかった。



画像をクリックすると、拡大画像が新しいウインドウに表示されます。  次にトランスとブリッジダイオード(B.D)を含んだ整流回路の動作チェックを行った。AC100V・1A・60Hzの商用交流電源を入力し、その出力をオシロスコープで確認した。
 オシロスコープをDCカップリングで見た場合、約23Vの直流電圧に整流されていることが分かる。次にACカップリングで見た場合リップル電圧は±0.7Vと大きいものであった。



画像をクリックすると、拡大画像が新しいウインドウに表示されます。  次にトランスとB.Dにローパスフィルターを加えて整流回路の動作チェックを行った。入力は先ほどと同じ100V・1A・60Hzの商用交流電源。
 結果は左図でB.Dでの出力約±0.7Vから、ローパスフィルターによってリップルが±2mVまで改善されていることが分かった。



画像をクリックすると、拡大画像が新しいウインドウに表示されます。  最後に定電圧電源回路全体の動作チェックを行った。
 DCカップリングで出力12Vの直流電源であることを確認し。ACカップリングでリップル電圧が1mVみまんであることを確認し、これによりレーザーダイオードに安定した電圧を供給することが出来る。



画像をクリックすると、拡大画像が新しいウインドウに表示されます。  次に実際に作製した電源回路を用いてLDを駆動させた。また実際に光プローブに光を送ることを考えると、連続した強いレーザーを光プローブに送ると先端に施されている金属蒸着が解けてしまうことが考えられたので、LDはパルス波で駆動させることにした。
 またBias-Tを用いて、パルス幅1μs以下の高周波信号で変調を掛ける事でLDを駆動させることにした。



画像をクリックすると、拡大画像が新しいウインドウに表示されます。  まずLDの構造からその動作原理を説明する。LDの構造はp型n型半導体で活性層を挟み込む、Double Hetero構造と呼ばれるもので、n型p型半導体の屈折率に比べ活性層は高い屈折率で、これにより光ファイバーと同様に光を閉じ込める効果を持つ。
 また、活性層はn型p型半導体に比べバンドギャップが狭いことから、ここで同時にキャリアの閉じ込め効果ももつ。
 このような構造のLDに順方向のバイアスをかけるとキャリアの移動がおこり反転分布条件が満たされて活性層で誘導放出が起き光が放射される。また、光の閉じ込め作用によって光は活性層を往復しその間に増幅され、そしてレーザー光が放射される。
 このとき反転分布条件が満たされる電流値前後で変調を掛けてやることでレーザー光をパルス状に発振することが出来る。



画像をクリックすると、拡大画像が新しいウインドウに表示されます。  LDレーザーを定電圧電源回路を用いてパルス駆動させ、その動作をチェックした。そのときの装置配置図を左に示す。
 右上が光パワーメーターでレーザー強度を測定したもので、約35mA以上の電流値で光強度が強くなっているのが分かる。
 図中にしめしたオシロスコープの波形は20mAの電流で電圧値を0Vから0.1Vの間で変調を掛けてレーザーをパルス発振させたもので、1kHzの場合は変調波と同じタイミングでパルスレーザーが発振しているが30kHzではパルスレーザーは変調はより約5μs遅れて発振していることがわかった。



画像をクリックすると、拡大画像が新しいウインドウに表示されます。  次に5kHzの変調信号でLDを駆動させ、同時に電流値を変えながらパワーメーターで光強度を読み取った。
 さらにこのとき、パルスはのDUTY比を50%から10%に変化させ同様に光強度を測定すると、50%の時は約85mA以上では光強度が1750μWでフラットになるのに対して、10%では約2500μWまで強度が強くなることが分かった。
 これによりDUTY比が小さい程光強度が強くなることが分かる。



画像をクリックすると、拡大画像が新しいウインドウに表示されます。  今後今回製作した電源回路でLDを作動させ、それを近接場顕微鏡と組み合わせて近接場により試料表面を局所的に2光子励起による蛍光観測を行う。