有機色素結晶及び薄膜の局所蛍光観測


-背景-
 微細なものを観察する時には、顕微鏡が使われているが、従来の光学顕微鏡の空間分解能は、光の回折限界の為、光の波長の半分程度までに制限されている。近接場光学顕微鏡は、近接場を利用する事で、光の回折限界を超える空間分解能を実現させた光学顕微鏡です。測定には先端に微小開口を持つ、ファイバープローブが用いられておりその開口径によって空間分解能が決まる。

 これによりナノメーターサイズの試料の形状と構造の観察が可能となり、単分子蛍光検出,半導体デバイスの分光研究,高密度光記録等への応用も期待できる。




画像をクリックすると、拡大画像が新しいウインドウに表示されます。  ローダミン6Gを近接場顕微鏡で測定する場合、試料に強い励起光を照射すると急速に褪色し測定できなくなる。
 特に結晶が60μm以下のとき褪色が起こりやすい。そこで褪色を防ぐためにPMMAポリマーで薄膜を作りその中に蛍光色素微結晶を包埋した試料を作製した。



画像をクリックすると、拡大画像が新しいウインドウに表示されます。 @PMMAポリマーをクロロホルムに溶かす
Aその中にエタノールに溶かしたローダミン6Gを滴下し攪拌
Bピペットに溶液を約10μl 採りシャーレの水面に静かに広がるように落とす
C膜の上からカバーガラスを押しつける
Dカバーガラスをゆっくりと持ち上げるとガラス上に薄膜が作られる



画像をクリックすると、拡大画像が新しいウインドウに表示されます。  蛍光色素を包埋したPMMA薄膜を光学顕微鏡下で測定したときの結果です。
 左側が反射光像、右側がグリーン励起したときの赤色の蛍光像です。
 反射光測定で黒くなっているところが蛍光測定で明るく輝いておりアバランシェ・フォトダイオードで測定した蛍光強度も強いことから薄膜内の黒い粒が再結晶化した蛍光色素であると分かる(粒の直径約1〜2μm)。
 しかし、この作製方法では薄膜の色素の濃度は均一にならず一部に大きな固まりができたり、また膜厚が厚すぎるので、薄膜に包むことによって近接場顕微鏡で測定する時に蛍光色素に近接場が届きにくくなりプローブに入る蛍光も弱まる。
 そこで薄膜をより薄く滑らかにする必要がある



画像をクリックすると、拡大画像が新しいウインドウに表示されます。  近接場顕微鏡での測定時にプローブで試料の励起と集光の両方を行っており、蛍光測定時には、励起光の反射光と蛍光を分光しなくてはならいのでこのファイバー光学系を構築した。
 構築した光学系が機能しているかを確かめる為に色素溶液の蛍光をアバランシェフォトダイオードを用いて測定した。
 左が試料側、光検出器側ともにマルチモードファイバを使用し連続光で測定した時の結果、右はシングルモードファイバに変え光源に変調をかけたときの結果
@が試料に当てた時の値
Aが試料からはずした時ときの値(バックグラウンド)
 マルチモードファイバでは蛍光1.2Vに対してバックグラウンド3.8V、シングルモードファイバでは蛍光25mVに対してバックグラウンド25mV
以上の結果から、分離光学系は機能していると云える
また、ファイバーをマルチモードからシングルモードに変えることでS/N比が1:3から1:1改善されている



画像をクリックすると、拡大画像が新しいウインドウに表示されます。  近接場顕微鏡での測定方法
YAGレーザはダイクロイックミラーで反射し近接場顕微鏡側の対物レンズで集光され光ファイバーに入射する。
 ビームの位置は大まかには2枚のステアリングミラーで近接場側のスリットの中心を通るように調整し、ファイバーカプラーでコア層の中心に入るよう微調整する。
 近接場顕微鏡内の試料からの反射光及び蛍光が戻ってくるが、ダイクロイックミラーによって反射光は光源側に反射し蛍光のみが光検出器側のレンズで集光されファイバーに入射する。
 光検出器側のファイバーへの入射調整は近接場顕微鏡を外して赤色LDの光を導入し検出器側のレンズとファイバの中心に入るように台の位置を調整する。
 このようにして、近接場側,検出器側のファイバを同一直線上におき対物レンズは同じ焦点距離および倍率のものを使用することでコアから出た光はコアにクラッドからの光はクラッドに当たるのでクラッド層から出る蛍光を遮断しバックグラウンドを下げることができる。



画像をクリックすると、拡大画像が新しいウインドウに表示されます。  微結晶を観測する準備として蛍光色素ローダミン6Gのマクロ結晶を試料として測定した。
 上段左側はマクロ結晶の光学顕微鏡写真、右側は近接場顕微鏡内の試料にプローブを近づけた様子。
 下段左側は試料の表面の形状をスキャンしたもの、右側は532nmのYAGレーザを照射したときの、それぞれの部分に対応した蛍光強度です。
 測定範囲は結晶中の2μm×2μmの範囲
高さの最大値と最低値の差は1μm、蛍光強度はAPDによるロックイン検出(270Hz変調)で振幅は最大2mV・最低1.5mV

 蛍光強度の小さいところが褪色によるものか結晶欠陥によるものかなど詳細はわからないが、高さと蛍光強度は対応していないので、高低差によってプローブから離れたために蛍光が弱まったのではないと考えられる。
使用したプローブの開口径は420nm



画像をクリックすると、拡大画像が新しいウインドウに表示されます。 今後の展開
 より濃度の薄い薄膜を作製し孤立した微粒子を1個ずつ近接場測定。
 完全な結晶領域と欠陥のある領域の蛍光スペクトルの違いを調べる。
 超微粒子からの微弱な蛍光を測定する為、フォトンカウンティング・ユニットによりナノ秒時間分解蛍光法で測定する。

 ナノ秒時間分解蛍光法とは、試料から出る蛍光のスペクトル、偏光度などの時間的変化を直接測定することにより、ナノ秒領域で起こる種々の反応や分子の運動などについての情報を得る方法である。