有機色素微粒子の自己組織配列作製と近接場蛍光観測


-研究目的-

 分子性結晶中の有機色素分子を自己組織的に配列し 光学的に分子環境を調べる。
 1 自己組織手法による有機色素微粒子の作製する。
 2 近接場光学顕微鏡で個々の微粒子を分光する光学系の構築。




画像をクリックすると、拡大画像が新しいウインドウに表示されます。  有機物は分極性結晶であり、分子同士を結びつける力は弱い、しかし有機物が微粒子になると、エントロピーの効果が小さく結晶構造の乱れが存在するとエネルギーが大きく損失するので、理想的な結晶状態になることが期待できる。我々はナノメートルサイズレベルでの色素の分子配向が微粒子内に実現されないか、特に結晶場の効果が微粒子の光学的性質としてどのように発現するかを調べる。 分子配向を期待して自己組織的な方法で微粒子を作成する方法を模索し、微粒子内の色素分子の状態(分子環境)を光学的に調査する。以下の3つの理由から対象試料として有機色素ローダミン6Gを採用した。
1.分極分子が双極子相互作用で集合するローダミン6Gでは、結晶場の影響が大きく現れる、
2.レーザーに対して褪色が起こりにくい、
3.量子効率が高く強い蛍光が出るため、微粒子でも観測がし易い。
の3つの理由から採用した。



画像をクリックすると、拡大画像が新しいウインドウに表示されます。  基板表面でのウェッティング・ディウェッティングを制御することにより、色素の薄膜を作製した。 色素溶液が均一な厚さに薄く広がるよう、カバーガラス表面をオゾンで親水化処理した。この上にローダミン6Gのエタノール溶液を広げ、試験管を一定の力で押しつけて転がす
試験管が転がった後には非常に薄い色素溶液が残る。短い時間の後、エタノールは蒸発し色素の微結晶が析出する。このように基板表面がエタノールと親和性が高いほど、より薄い状態まで溶液が広がったままでいられる。この濡れやすさがウェッティング・ディウェッティングと呼ばれる。



画像をクリックすると、拡大画像が新しいウインドウに表示されます。  試験管の移動方向に沿って粒の大きさの揃った蛍光色素の微結晶が等間隔で配列されている
大きさは色素が集まる範囲によって決まる、その範囲は温度、分子の熱運動で決まる 温度を上げればより広い範囲から色素が集まるが、エタノールが早く蒸発してしまい大きさの制御は出来ない



画像をクリックすると、拡大画像が新しいウインドウに表示されます。  近接場顕微鏡での測定時の光学系
励起レーザはダイクロイックミラーで反射し近接場顕微鏡側の対物レンズで集光され光ファイバーに入射する
そして近接場顕微鏡内の試料を化学エッチングで作ったプローブでイルミネーション−コレクションモードで測定する
励起光の反射光及び試料からの蛍光が戻ってきますがダイクロイックミラーによって反射光は上に反射し蛍光のみが光検出器に導かれる
検出器はAPDとフォトンカウティングユニットを用いる



画像をクリックすると、拡大画像が新しいウインドウに表示されます。  マクロ結晶の表面測定
微結晶を観測する準備として蛍光色素ローダミン6Gのマクロ結晶を試料として測定した
マクロ結晶の光学顕微鏡写真、表面形状及び532nmのYAGレーザを照射したときの、それぞれの部分に対応した蛍光強度です
測定範囲は結晶中の2μm×2μmの範囲 高さの最大値と最低値の差は1μm 蛍光強度はAPDによるロックイン検出(270Hz変調)で振幅は最大2mV、最低1.5mV
蛍光強度の小さいところが褪色によるものか結晶欠陥によるものかなど詳細はわからないが高さと蛍光強度は対応していないので高低差によってプローブから離れたため暗くなったのではないと考えられる
空間分解能は0.8μm程度



画像をクリックすると、拡大画像が新しいウインドウに表示されます。  対象試料を何も置かない時にロックインアンプに出力される検出値をもとめる。この値がS/N比を低下させている全バックグラウンドである。
 次に、α点に遮光版を置く。もし、この場所で全バックグラウンドの値と同等の値が出れば、ダイクロイックミラーからバックグラウンドが発生している事になる。同様にβ点でも遮光板を置きロックインアンプの値を測定する。この値からαで求めた値を引くことで、その値は対物レンズから発生した場合のバックグラウンド値となる。 最後に全体のバックグラウンドの値からβ点の値を引くと、光プローブファイバーから発生したバックグラウンドとなる。
 実験条件として、532[nm]のYAGレーザーを照射したとき、APDによるロックイン検出したバックグラウンドである。表1を見るとダイクロイックミラーや対物レンズから生じるバックグラウンドは少なく、全体のバックグラウンドの91[%]がファイバーから発生しているのがわかった。よって、光プローブファイバーから発する蛍光バックグラウンドを抑制すれば大幅なS/N比の向上が見込まれる。



画像をクリックすると、拡大画像が新しいウインドウに表示されます。 ファイバへのレーザ光のカップリングをするのに最適な対物レンズ計算で求めた
完全に適合するものは無かったが、よりましな2つについて実際に測定し、対物レンズからの蛍光の少ないレーザ用の30倍の対物レンズを用いることにした



画像をクリックすると、拡大画像が新しいウインドウに表示されます。  金属ドープファイバと純粋石英のファイバとの蛍光強度を比較
ファイバからの蛍光強度は200mvから16mvと8%に抑えられ、ファイバの伝送効率も60%から86%と高くなった
 よって純粋石英のファイバを用いることにする



画像をクリックすると、拡大画像が新しいウインドウに表示されます。  ファイバーからの蛍光を抑止するのため、ブロックフィルタを追加
 バンドパスフィルタ 590DF50を用いることでS/N比は2.5から10に改善した



画像をクリックすると、拡大画像が新しいウインドウに表示されます。  微粒子からの蛍光は微弱であると考えられるので、高感度なフォトンカウンティングユニットを光検出器として測定した。CW励起光源にNDフィルターを使用してフォトンカウティングによる検出値が飽和しない程度に減衰させた。



画像をクリックすると、拡大画像が新しいウインドウに表示されます。  フォトンカウティングを用いた近接場蛍光観察においてS/N比を向上させるには、NDフィルターを外し励起光の強度を上げるしかないが、現状では励起光の強度を上げると測定値が飽和し正確な情報が取得できず、さらにはフォトンカウティングユニット自身が壊れてしまい。S/N比を向上させることができない。
 そこで励起光源の出力を最大にしても計測できる、APDを用いたロックイン検出を行った。ロックイン検出されたデータは電圧として取り出すことができ、これを近接場顕微鏡に導入してトポグラフィーと同時計測できる。



画像をクリックすると、拡大画像が新しいウインドウに表示されます。  ウェッティング・ディウェッティング法により作製した10μm〜1μm未満の微粒子をイルミネーションコレクションモードで単一微粒子の近接場蛍光測定を行った。
 円形で囲まれた2μm〜1μm未満のローダミン6G微粒子の近接場蛍光観察に成功した。1μm未満の微粒子の最大近接場蛍光強度は6.06mVで蛍光バックグランドは3.37mVであった。S/N比は0.8と低く今後、さらに小さな数ナノメートル径の単一微粒子の近接場蛍光観察を行うためにはS/N比の向上が必要になる。
 一方、2[μm]径の微粒子からの近接場蛍光を測定出来ない箇所が存在した



画像をクリックすると、拡大画像が新しいウインドウに表示されます。  2μm径の微粒子が蛍光を発していない原因として
1.微粒子が励起光を吸収していない
2.微粒子は励起光を吸収しているが、蛍光を出さない
3.微粒子は励起光を吸収し蛍光を出しているが、検出できていない
の3通りに場合分けできる。
 まず、2の可能性について検出器の感度不足が考えられるが、発光しない微粒子よりも小さな微粒子でも近接場蛍光を観測できているので、この可能性は除外できる。3の可能性として、分子が光学的に不活性な状態になっている、例えば、空気中の酸素などとの化学反応により色素が褪色している可能性がある。だが測定以前には試料には一度もレーザー光を照射しておらず、1回目の照射で走査・測定したものであり、光褪色は考えにくい。従ってもっとも可能性が高いのは、1の原因である。微粒子内の分子遷移モーメントの方向と励起近接場の電場方向が、例えば直交しているなどの可能性が考えられる



画像をクリックすると、拡大画像が新しいウインドウに表示されます。  微粒子内の分子遷移モーメントの方向と励起近接場の電場方向が直交しているかどうかを確かめるために、微粒子の配向性を調べた。
分子双極子の方位を調べるには、励起光を偏光する必要がある。近接場光は光ではなく電磁場であり偏光方向はランダムに存在している。そこで、励起光を特定の向きに偏光でき、分子双極子の方位を調べる光学系が必要になる。
 プリズムを用い励起光を基板に対して45°で入射したとき、全反射によって生じるエバネッセント場で微粒子を励起した。光学顕微鏡にはCCDカメラを搭載できるので、微粒子の発光状態を画像として処理できる。エバネッセント場励起、遠視野場励起と2つの励起方を選択できる。基板表面に近い微粒子だけを励起する。
 実験手順
@自己組織化した微粒子を光学顕微鏡の試料台にのせる。
A試料が乗ったスライドガラスの下面に光プリズムを付け、対物レンズの焦点位置とエバネッセント場領域が重なるよう調整する。
B高解像度CCDカメラを用いて、遠視野場で励起したとき、偏光エバネッセント場で励起したときの蛍光像を撮影する。


画像をクリックすると、拡大画像が新しいウインドウに表示されます。  偏光エバネッセント場励起で観測されるすべての微粒子は、励起光の電場がXY面内にある遠視野場励起でも観測されるので、分子配向はZ方向を向かずXY面内にあると考えられる。また遠視野場励起で観測される総ての微粒子は、P偏光励起、S偏光励起のいずれかでは観測できている。

画像をクリックすると、拡大画像が新しいウインドウに表示されます。  基板表面近傍に存在する分子はオゾンによる洗浄のため負に帯電した基板との相互作用が働き配向の揃った分子が積み上がる。
基板表面から離れた場所に存在する微粒子は分子間の相互作用が弱いので面内での配向方向が乱れる。

画像をクリックすると、拡大画像が新しいウインドウに表示されます。  ウェッティング・ディウェッティング法で作製した微粒子の結晶場の効果を調べるため、高感度マルチチャンネル光検出素子が付いた分光計測装置(イメージインテンシファイア+CCD)を用いて微粒子の発光スペクトル測定を行った。
 微粒子の発光スペクトルは溶液の発光スペクトルより、ピークが長波長側にシフトしてることがわかった。微粒子内色素分子では、溶液に分散された色素分子の持つ励起エネルギー準位ができたことを示唆している。
 次に約2μm径の単一微粒子の蛍光スペクトルを測定した所、先鋭な発光スペクトルが観察され、かつ微粒子ごとに発光ピークが異なっていた。ストークスシフトは低エネルギー側へ約2.3eVと大きく、微粒子がJ会合体と類似の結晶場から構成されていると示している

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  まとめ

間隔が広く粒の大きさのそろった試料が作製でき、光学顕微鏡や近接場顕微鏡で一部測定できた
PMMAに包埋しての褪色の抑制の測定は出来ていない
光学系の構築はBGが大きく微弱な蛍光を観測できていない