「全然大丈夫!」と聞いて、この言い方に違和感を感じるか、否か。
斉藤特任講師は、若い世代にとっては自然な言い回しとなった「全然+肯定形」について研究しています。言葉の意味や文法だけでなく、どんな場面で使われ、どんな機能を持っているのかなど裏側まで探ってみると、人や社会のあり方が見えてきます。
斉藤特任講師は日本語の語用論を専門に研究しています。「ペン、ありますか?」と尋ねられたら、「はい」と返事をするだけでなく、ペンを貸してほしいという相手の意図を汲み、実際にペンを渡そうと動きます。語用論とは、こうした言葉の使われ方や言葉のもつ機能を明らかにする研究分野です。
この語用論の中でも、特に現代日本語における配慮表現がそのメインテーマ。配慮表現とは、相手との関係を良好に保とうとする気持ちから使われる言い回しで、この使われ方が社会に定着している言語表現をいいます。
たとえば、頼まれごとを断るときに「無理です」というのではなく、「来週であれば」とか「今ちょっと無理なんです」といった言い回しをします。この「ちょっと」という言葉は、「少ない」という意味でなく、語気を和らげるために使われています。
斉藤特任講師は、若者がよく使う「全然大丈夫」など「全然+肯定形」も配慮表現の一種ではないかと考えています。他にも「全然おいしい」など、副詞「全然」が否定表現だけでなく、肯定形と使用されることがあります。こうした表現に違和感を感じ、文法上正しくないと否定する人もいます。
斉藤特任講師は文法の正誤ではなく、「全然」が何を否定しているのかに着目。相手の心配や不安を打ち消す「全然(そんなことはないから)大丈夫」といった、相手に配慮する気持ちが裏にあるのでは?と指摘しています。このような配慮の気持ちを言い表そうとしたとき、否定表現を伴うという副詞「全然」の文法上のルールを破るものの、自分の気持ちを言い得て妙な表現として、現代日本語として定着しつつあると説明できます。使う人の人柄を表し、使われている社会の一面を映し出す鏡としての言葉。その面白さは尽きません。
また、斉藤特任講師は大学における教育プログラムのあり方についても研究を行い、協同学習の実践に取り組んでいます。
協同学習とは、少人数のグループで一人ひとりが責任を果たし協力し合いながら課題や目標に取り組む学習のやり方。議論などのやり取りをしながら意見が対立した時にどのように調整していくか、といった社会的なスキルも身につけられることがポイントです。協同学習は、人種、言語、文化、経済的地位など、さまざまな差異があるアメリカで発展し、日本の協同学習はその流れを汲んでいます。この協同学習の研究において、クラスの中で競争させるよりも、協同させた方が学びの質が高まるという研究結果も出ています。
斉藤特任講師は、キャリア教育の授業などに協同学習を取り入れ、効果を検証しています。自分で考え学ぶ姿勢が身につくこと、いろんな人と話し合いをしながら知識を深め合うことでパフォーマンスが高まることを、学生自身に実感してもらうのが狙いです。実際、話すのが苦手だった人が、回を重ねるごとに自分の意見を語りはじめたり、そうした仲間の変化を喜ぶ姿が見られるなど、クラスの雰囲気やお互いに対する関心度に変化(成果)が表れ始めています。
斉藤特任講師が研究する「全然+肯定形」は、実は戦前の小説などには使われている表現なのだとか。それが、いつのまにか「全然は否定形と使う」という意識が広がり、今またそれが元の用法に戻ろうとしているのかもしれません。
言葉は時代とともに変化します。配慮表現には人と人との関係を紡ぐ言葉の力がよく表れています。今後私たちが何に配慮し、どんなコミュニケーションを最良と考えるのかは、言葉が教えてくれるのかもしれません。
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