SAKAMOTO Tomohiro
共通教育機構 人間科学教育研究センター 准教授
文学修士
神戸大学
哲学・倫理学

ギターが好きで、自分の作った歌で哲学の授業をするのが夢です。本を読むのが好きで、SF小説、ライトノベルからドストエフスキーまで、何でも読みます。家の周りの草引きをしているとカタツムリやアマガエルに出会えるのが楽しみ。

「問い直し」の技術である哲学に触れて、
現代を立派に生き抜く技術者になろう!

哲学は、「考えることを考えること」(考え方について調べること)であり、また適切な知性活動の技術を提供するための研究ですが、自然科学や数学と異なるのは、実験・観察・証明といった手段を用いず、ビジョン(ものの見方・考え方)とアーギュメント(議論)を柱として、思考のみに頼って思考の構造を調べる「概念工学」である点です。
坂本准教授は、現代の高度文明社会で人が「善く生きる」ためには、哲学や倫理が必要であり、中でもソクラテス(B.C.470〜399)の考えが役立つと考え、その研究に取り組んでいます。

よい技術者には倫理が必要!

現代では、技術者は専門知・技術による大きな力を備えており、専門職として守るべき「倫理綱領」があると見なされるようになってきています。技術者は倫理的問題に直面することがあります。そんな時、どう考えればよいかの「考え方」を提供しようとするのが「技術者倫理」です。

技術が発達すると、できることが増えますが、新たな問題も増えます。たとえば、男女の産み分けが可能となったとします(今のところ確実な方法はありませんので仮定の話です)。しかし、できるようになったからと言って、やっていいのか? 倫理の問題は、こうした時に出現します。

倫理には「盗むな」「嘘つくな」等の「禁止命令」が含まれます。一般に倫理の機能は個人の行動の統制にあり、技術者の倫理綱領も(たとえば「公衆の安全を第一とせよ」のように)「指令」を含むことから、一見、技術者の行動を制限しているように見えます。けれども、「倫理綱領」は依頼人が違法な要求をした場合にそれを断わる根拠にもなり、技術者自身を守る働きがあります。

倫理的問題を解決するプロセスは、技術者が商品を設計するプロセスと似ています(ウィットベック)。良い商品の正解はひとつではなく、「コスト」「安全性」「作りやすさ」など様々な条件のバランスから、いくつもの設計案が考えられます。これと同じく、たとえば製品の安全性についての嘘が自社から発信されていることを知ったなら、現況や影響を見定めて上司に相談する、経営者にかけあう、内部告発するといった選択肢を、段階ごとに複数の選択肢から選んでゆくことになります。

技術者として「より善く生きる」ためには常に行動を選択し思考する必要がありますが、そのために欠かせないのが「知識」です。

科学技術の発達に伴い専門職には「倫理綱領」が求められる
技術者が直面する倫理的問題.たとえば,生命科学におけるクローン技術など,理論的・技術的には可能であったとしても,専門職には人として守るべき倫理綱領が求められる.先端技術が躍進すればするほど,哲学的・倫理的な審議が重要視されるように.

知識は生存に不可欠!

ここで突然ながら、人類全体を一人の人間としてイメージしてみて下さい。名前は「人類さん」です。「人類さん」の目は過去の方に向いており、見えない未来に向かって後ろ向きに歩いています。未来はまったく見えないので、不安です。しかし知識は客観的なものであり、客観的とはいつでもどこでも誰にでも通用するということなので、未来にも通用します。すると、知識の典型として「こうすればこうなる」という科学法則を例にとると、現在(時間t1とする)こうするなら未来(のある時点t2)にはこうなる、と確実に言えることになり、未来は暗闇で見えないままではありますが、知識のおかげでそこだけをスポットライトのように照らすことができます。これは未来を知りたい人間にとってはとてもありがたいことです。

動物レベルで考えても、知ることは重要です。人間は環境の中で動物として生き延びるには食べたり(栄養摂取)逃げたり(危険回避)しなければなりません。そのためには、どこに食べ物があり、何が危険なのかを知らなければなりません。それらの知識を蓄積したからこそ、人間は世界中で大いに繁栄できたのです。

知識を検討するためには、また獲得するためにも、「物事を根本から考える」こと、つまり哲学が必要です。科学哲学者カール・ポパーは、間違ったことを正しいと信じ、その後それが間違いだと気づくことによってしか知識は進歩しない、と言っています。しかし、当たり前だと思っていたことを根本まで解体し検討するということは、今までの考え方で本当によかったのか問い直すこと、つまり「考え方を考える」ことです。このように「当たり前」とされていることを、周囲の風潮に流されず勇気をもって問い直すことができるためには、疑問や好奇心をもつこと、謙虚に学ぶ姿勢をもつこと、「自分は知っている」という思い込みを捨てることが必要です。この態度を「無知の知」(「不知の自覚」)と言います。

不安な時代の中でも生きていける
そのための考え方を哲学は教えてくれる

哲学のことを知ると、「哲学なんて、無くても生きていける」ではなくて、「生きていくために、哲学がある」ということがわかってきます。
哲学はあらゆる学問のベースにあるものです。そして激動の時代にあっても、「人類さん」が、そして私たち一人ひとりの人間が胸を張って生きていくための「世界との向き合い方」を哲学は教えてくれます。

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