物質化学研究紹介教員紹介湯口 宜明
教授 湯口 宜明
 多糖類は身の回りの植物や生物の中に見いだすことができます。例えば、米にはでんぷんが含まれ、植物には植物細胞壁の構成要素であるセルロースが存在します。また食品添加物の増粘剤、ゲル化剤はほぼ多糖類です。海藻より抽出されるカラゲナンなどの水溶液は冷やすとゼリー状のゲル状態となります。温めると再び流動性をもったゾル状態に戻ります。
多糖類のゾルゲル転移現象
図1.多糖類のゾルゲル転移現象(カラゲナンの場合).
 図1に示すようにカラゲナンは熱可逆性のゾルゲル転移を起こすことが知られています。カラゲナンの場合、ゾル状態では分子鎖は単独で存在していますが、ゲル状態では2重螺旋を形成し、さらに互いに凝集構造をとることによって架橋領域をなし、系全体として網目構造をとることによってゲルに至るモデルが提唱されています。本研究室ではこのような見かけ上の多糖類の物性とミクロ構造の関係について調べることを目的とし、シンクロトロン放射光による小角X線散乱法を用いて、分子レベルでどのような現象が起こっているのかを観察しています。
 対象としている系として、例えばセルロース骨格を有するキシログルカンの様々なゲル化機構の解明を行っています。ヨウ素でんぷん反応のように、でんぷんはヨウ素溶液を添加すると紫色に変色します。これはアミロースらせん構造の内部にヨウ素分子が並んで錯体構造を形成することによるものと考えられています。キシログルカン水溶液もこのヨウ素溶液を加えると同様に呈色し、同時にゲル化することを見いだしました(図2参照)。
キシログルカン-ヨウ素溶液のゾルゲル転移現象
図2.キシログルカン-ヨウ素溶液のゾルゲル転移現象.
キシログルカンとヨウ素錯体ゲルのゲル化機構とその錯体モデル
図3.キシログルカンとヨウ素錯体ゲルのゲル化機構とその錯体モデル.

そしてこの錯体構造がどのようなものか調べるために小角X線散乱測定を行い、キシログルカン鎖とヨウ素分子の錯体構造(図3参照)を提案しました。また大きな輪の構造をとっている多糖類シクロアミロースの構造についても扱っています。このように多糖類はナノレベルで様々な特徴的な構造をとります。それら多糖類の構造特性を用いて、薬物送達担体などの何か役に立つバイオナノ材料の創製を本研究室は目指します。
最近の研究論文
(Y. Yuguchi, T. Fujiwara, H. Miwa, M. Shirakawa, H. Yajima, Macromolecular Rapid Communications, 26, 1315-1319 (2005))
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