(2)理論

(1)bipolar transistorとMOSFETの相違点

  一般に、FETの特長は4つに分けられる。  第1に、物理的な大きさである。MOSFETはbipolar janction transistor(BJT)に比べて小さく、チップの占める面積の20%から40%に過ぎない。従って、ICチップ上に密に集積でき、LSIなどによく用いられる。 第2に、MOSFETはある動作範囲では電圧制御抵抗素子として動作し、従来のIC抵抗よりチップ上に占有する面積が非常に小さい。 第3に、低容量で極めて高いインピーダンスである。 第4に、大きな電力を取り扱うことができ、数ナノ秒で大電流をスイッチできることである。これはBJTよりもずっと速く、具体的には、BJT 2N6308では平均スイッチング時間が1300ナノ秒に対し、MOSFET VMP−1では、5ナノ秒と著しく違う。これは、FETを高周波高電力スイッチとして利用できることを意味している。 最初の3つの特長を1つの装置で利用できることは、多くの異なる回路機能をMOSFETだけで1つのシリコンチップにもたせることができる。

(2)MOSFETの動作原理

エンハンスメント型のn−MOSFETを(Fig.1)に示す。ゲートはSiOで誘電体である。ゲートに正の電圧が加わると誘電体が静電分極し、ゲートの下に電子が誘起され、ソースとドレイン付近の電子が去る。                                                                          

(Fig.1)n−MOSFET                                                        

従って、ソースとドレインの付近には自由キャリアが存在しない、空乏層ができる。ゲート電圧が増加するに従って、ゲートのすぐ下にnチャネルができ、チャネルに引き付けられる電子の数は増す。それ故チャネルの導電率は増加する。ドレイン・ソース間電圧を増加させると、さらに空乏層が広がり、チャネルを狭くする。更に、ドレインの端の電荷がなくなり、チャネル・インピーダンスは増加し、VDS=V でチャネルがピンチオフになり、チャネルインピーダンスは無限大、即ち導電率が0になる。(実際には、無限大にならず、100kΩぐらい)このときゲート・ソース間電圧がさらに増加しても、ドレイン・ソース間電圧に対しては、チャネルの能動部分にかかる電界は一定値に飽和し、ドレイン・ソース間電流i はほんのわずか増加するだけである。(実際には特性が変化し、ドレイン・ソース間電圧が増加する程、飽和領域のi −VDSの傾きが増す。)ドレイン・ソース間電圧がピンチオフ電圧を越えると、空乏領域が(Fig.2)のようにドレインとソースの間にできる。  次に、ドレイン・ソース間電圧VDSをピンチオフ以上に固定して、ゲート電圧を増加させると、チャネルの導電率が増加して電流は増す。従って、ドレイン・ソース間電圧VDSはゲート電圧によって変化する。  これはエンハンスメントモードMOSFETであるから、MOSFETの動作領域では、ゲート電圧VGSは正である。また、チャネルを作るためには正でなければならないし、チャネルを形成されるまでは電流は流れないから、ゲート電圧VGSがある正の電圧(しきい値電圧)Vth以上にならなければならない。 これを考慮して、ドレイン・ソース間電圧VDSが     

DS
≦V
GS
−V
th
  −(1)

  の低電圧領域即ち、飽和されていないオーミック領域でのi−VDSの関係は、 −(2)

となる。この領域ではゲート・ソース間電圧VGSで制御される非線形電圧制御抵抗素子として振る舞う。  

                                                                                                   

             
(Fig.2)channelの形成 

                                                       

また、

    

DS
=V
GS
−V
th
   −(3)

になると、チヤネルがピンチオフし、i がほぼ一定値になった飽和領域では(3)を(2)に代入すると、  は、 −(4)

となる。この領域ではFETが増幅素子として振る舞うことを示す。((6)付録参照)

(Fig.3)ピンチオフした状態


 

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