多数キャリヤ密度の温度依存性を用いた半導体中の不純物評価法

電子工学科 松浦 秀治


1.まえがき

 半導体中には複数の不純物が含まれている場合が多く、これらが半導体の電気的特性に大きく影響を及ぼす。例えば、高温動作トランジスタ用半導体として期待されている6H-SiCと4H-SiCでは、窒素(N)が2種類のエネルギー準位を持つドナーとなり1)、アルミニウム(Al)と硼素(B)がアクセプタとなる1−2)。報告によると、成長膜中にこれらのドナーとアクセプタが混在する3、4)。本論文では、多数キャリヤ密度に影響する複数の不純物密度とエネルギー準位を高精度で評価する方法を提案する。
 一般的には、多数キャリヤ密度 の温度依存性を のグラフで表し、傾きからエネルギー準位を、そして飽和値から密度を見積もる5)。しかし、2種類以上の不純物が含まれる場合、この方法が適用できないことが明らかにされた6)
 Hoffmannは多数キャリヤを生成する不純物を評価するために、多数キャリヤ密度の温度依存性をフェルミ準位で微分する解析方法を提案し6)、その方法を用いた実験結果が報告されている6−8)。複数の不純物準位が存在する場合にも、それぞれのエネルギー準位に対応するピークがグラフ上に現れ、ピーク値から密度、及びピークを与えるフェルミ準位のエネルギーからエネルギー準位が同時に評価できる解析法である。しかし、各温度で測定した多数キャリヤ密度をフェルミ準位に関して微分するため、測定誤差が増大し、ピークを見つけだせない可能性がある。
 ドナー(またはアクセプタ)だけが複数存在する場合、微分を行わず、多数キャリヤ密度の温度依存性から、各々の不純物密度とエネルギー準位を評価する方法を検討してきた9-10)。つまり、関数 を と定義すると、各エネルギー準位に対応する温度で がピークを示す。ここで、 はボルツマン定数である。そのピーク値とピークを与える温度から、不純物密度とエネルギー準位を評価した。本論文では、ドナーとアクセプタが混在する場合について考察する。以下では、議論を簡単にするため、n形半導体の場合について考えるが、p形半導体の場合も同様に成り立つ。



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