OHNISHI Rieko
総合学生支援センター 特任准教授
修士(心理学)/ 臨床心理士 / 公認心理師
広島大学
大学適応に関わる要因と支援のあり方 / 対人ストレスと援助要請の認知行動的メカニズム

誰かとお酒を飲むことが好きですが、一人で過ごす時間も大切にしています。不安や悩みは一旦置いて、山の中をドライブしたりして頭を空っぽにするとストレス解消になります。

メンタルヘルスリテラシーの向上で 
不調や病気の早期発見・予防

目に見えなかったり、わざと気づかないようにしたり。心の不調には、早期に発見することが重要なのに難しいという厄介さがあります。思春期以降は心の病気が発症しやすい時期。
大西特任准教授は、心理カウンセラーとして学生相談を担当。心の不調と向き合える環境づくりをテーマに研究を進めています。

心の問題を相談できないのはなぜか

メンタルヘルスにとって重要なのは、心の違和感や不調に早く気づいて対処することです。心理カウンセラーなど専門家に相談し援助を受けることで、深刻化しないうちに回復するケースも数多くあります。

一方で、心の問題に気づいたとしても、気軽に誰かに相談できない人もいます。大西特任准教授が行った本学の学生に対する調査では、30%程度の人が心の問題を抱えていても誰にも相談できないと回答しました。相談できない人の中には、「相談してもわかってもらえない」「馬鹿にされる」など相手に対する不信につながるようなとらえ方をしている人がいると考えられます。

直面している状況をどうとらえるか、つまりどう認知するかは、私たちの感情や行動に影響を与えます。うつなどの疾患や不適応を抱える人の中には、「100点をとらなければ意味がない」といった極端な考え方をしたり、「Aさんはそれをしてもいいけど、私はだめ」とダブルスタンダード に陥ったりする「考え方のクセ」を持つ人がいます。そのような認知の偏りによって気分が落ち込み、やる気もなくなっていくのです。

大西特任准教授の研究では、対人関係において人との距離をとり過ぎてしまう人や、自分の内面をさらけ出せない人には、「自分を理解してもらえない」などネガティブな結果を予測する認知の枠組みがあることがわかっています。また、心の問題に関する援助要請行動について調査した結果、似たような認知の傾向が表れました。

今後は、このような認知を緩和し、不適応予防や適応的な大学生活の促進につながるプログラムを作成・実践することが目標です。認知の偏りを自覚し、より現実的で柔軟なとらえ方や行動を自分で選択できるよう援助する認知行動療法なども取り入れ、授業やカウンセリングなどでの実践につなげたいと考えています。

大学生に対するアンケート結果
年齢・性別に関係なく心の問題に気づいたとしても,気軽に誰かに相談できない人も少なくない.「相談してもわかってもらえない」「馬鹿にされる」など周囲への不信感や,対人関係において人との距離をとり過ぎてしまう人,自分の内面をさらけ出せない人には,ネガティブな結果を予測する認知の枠組みがあるという.

心の病気への偏見をなくすことが重要

メンタルヘルスという言葉は一般化してきましたが、私たちは心の健康を守る術を知っていると言えるでしょうか。心の不調に気づけない、支援の手が届きにくい大きな要因の一つは、メンタルヘルスや心の病気についての知識が不足している点にあります。

このような認識のもと、日本の学校でもメンタルヘルスリテラシー教育に取り組む動きが活発になってきました。カナダのKutcher博士は、メンタルヘルスリテラシーには「心の健康を維持するために何をすべきか理解していること」「精神疾患の症状とその対処方法を理解していること」「精神疾患に対して偏見を持たないこと」「精神的な問題で困った時に、いつ、どこで助けを求めるかを理解していること。その相談先で何を期待できるのか、何が得られるのかを理解していること」が含まれるとしています

大西特任准教授は、担当する授業の中でもメンタルヘルスリテラシーを高める取り組みを行っています。特に「ストレスとは何か?」や、その対処法・対人スキルなどストレスマネジメントに関わる知識を重点的に押さえるととともに、心の元気を失っている人への偏見をなくすため「自分の中の偏見-意識に気づく」機会を設けるなど、授業全体のバランスや構成を工夫しています。

日本の学校でもメンタルヘルスリテラシー教育に取り組む動きが活発になっている.誰でも,心が苦しくなる状況に陥ることを理解し,自分をとりまくコミュニティの中で「気軽に相談できる関係」を築いておくことも重要だ.また,リテラシー教育を通して「精神的な問題で困った時に,いつ,どこに助けを求めるのか?」などを理解しておくことで、突破口を見出すこともできる.

子どもから大人まで必須
日々の健康管理に“心の健康”を意識する時代へ

日本の自殺者は2万人を超え、人口10万人当たりの自殺死亡率は先進国に比べて高い水準にあります。また精神疾患も毎年増加し、うつや不安、ストレスを抱える人が数多くいます。
病気になってしまってから専門機関で治療するのではなく、誰もが日常的な健康管理の1つとして「心の不調」に気づき、病気が発症する前に「できるだけ多くの」「相談でいるひと」と早期解決を図ることが重要です。小・中学校からの健康教育でも、自分だけでなく周りの人たちも含めたメンタルヘルスへの学びが求められている時代です。

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