山本研究室 大阪電気通信大学工学部機械工学科 本文へジャンプ
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複雑流体の流動誘起構造の数値シミュレーション

 複雑流体が示すニュートン流体には見られない様々な流動挙動の主な原因は,流動中の流体内部構造の変化にあります. 例えば,高分子の形状変化や高分子ネットワークの変形,ミセルの構造変化,粒子の濃度分布や配向などのメソスケールの構造が流動によって変化し,それが流体の特徴的なマクロ流動挙動として発現します.
 このような流動誘起構造を,ブラウン動力学シミュレーションやMulti-Particle Collision Dynamics (MPCD)シミュレーションなどの手法を用いて数値解析しています.
 また,メソスケールの流体内部構造の変化の数値シミュレーションとマクロ流動の数値シミュレーションをカップリングし,統合的に複雑流体の流動シミュレーションを行うための数値解析手法の研究を進めています.



流動誘起構造の数値シミュレーションの例
左:ポリマー/クレイ系粒子分散系のブラウン動力学シミュレーション
右:星形高分子のMPCDシミュレーション



複雑流体の流動解析

 複雑流体は,その内部構造に起因する機能性のために,様々な製品の原料として利用されています.そのような製品の製造プロセスのほとんどで,流動現象が現れます.しかし,一般に,複雑流体の流動挙動は水や空気などのニュートン流体とは大きく異なる特異なものとなり,様々な問題が発生しています.したがって,複雑流体の特異な流動のメカニズムを解明し,流動挙動を予測することは,製品の成形プロセスの設計や効率化に役立ちます.
 当研究室では,実験と数値計算の両面から,様々な複雑流体の流動現象の解明に取り組んでいます.


高分子流体の流れの可視化実験の例


高分子流体(粘弾性流体)の数値流動シミュレーションの例


生物系粒子分散系の流動解析(能動粒子分散系の流動解析)

 微生物分散流体は,バイオリアクターやバイオ燃料生産プロセスなどで見られます.
 微生物は光量,化学物質濃度,pHなどの周囲環境に応じて運動を変化させます.そのために,流動条件や周囲環境の状態に依存した運動や流体内部構造形成が現れます.例えば,バイオ燃料の生産で使われる微細藻類は,光合成のために適した光度の位置へ移動する性質をもちます.
 このような微生物を,自己推進能を有する能動粒子として見れば,微生物分散流体も複雑流体の一種と考えられます.
 このような発想のもと,複雑流体の流動解析手法を適用した生物系粒子分散系の流動の研究を進めています.

 通常のサスペンション(懸濁液,分散系)では,分散粒子はファンデルワールス力や静電力などによる粒子間相互作用や周囲の流体を介した相互作用(流体力学的相互作用)により運動する,いわば受動的な粒子ですが,微生物などの生物系粒子は自ら運動できる能動粒子です. このような能動粒子のサスペンションは,通常のサスペンションには見られない内部構造形成をすると予想され,流体力学的・レオロジー的にも興味深い研究対象です.




走光性微細藻類分散系のイメージ図
(微細藻類は光合成に適当な光量の位置へ移動しようとする)



微細藻類分散系の生物対流(bio-convection)の数値シミュレーション結果



流動下のバイオフィルムの成長現象

 バイオフィルム(生物膜)は,微生物が形成するスライム様の膜のことで,微生物の表面にある細胞外ポリマー(Extracellular polymer; EPS)と微生物の集合体です.バイオフィルムは,汚水浄化や土壌浄化といった微生物による環境浄化(バイオレメディエイション)に利用されている一方で,熱交換システムの配管への付着による熱効率や給水効率の低下,金属材料の腐食,病原体の発生源といった負の側面もあわせもっています.
 バイオフィルムの内部では,複数種の微生物によるコミュニティ間の情報伝達や栄養物などの輸送現象や,細胞外高分子がネットワーク構造や凝集構造を形成する現象が見られます.これらの現象は,複雑流体において見られる流動誘起構造との類似性があり,複雑流体の流動誘起内部構造を考慮した流動解析の技術を応用することにより,新たな解析アプローチを与えることが期待されます.

 本研究では,バイオフィルムを複雑流体ととらえ,複雑流体力学の観点から,バイオフィルムの工学的応用のためのシミュレーション手法を検討していきます.


バイオフィルムの模式図


 バイオフィルムはゲル状の物質で,内部では微生物の運動や成長が見られ,複雑な構造を有する.



バイオフィルムの成長現象

バイオフィルムは,付着・成長・剥離の過程を繰り返す.




セルオートマトン法によるバイオフィルムの成長現象のモデリング

 バイオフィルムの成長をセルオートマトン法で表現し,周囲の流動を有限体積法により計算する計算手法により,バイオフィルムの成長現象をシミュレートする.



バイオフィルムの成長現象の数値シミュレーション例
(矩形L字管内のバイオフィルムの成長現象)