問題解決の方法を考えるための学問「情報科学」。世界中の子どもたちが学んでいますが、日本はまだまだこの学問がうまく初等教育に取り入れられていません。
石塚教授は小学校の教育現場と連携し、子ども達が情報科学的なものの見方や考え方を楽しく体験的に身につけるための授業方法や教材の開発に取り組んでいます。
ほんの少し前まで、新しい技術や文化、価値観を創造していくのに必要なものは、知識でした。けれども、インターネットの普及によっていつでも情報や知識にアクセスできる現代、情報や知識と共に問題解決能力も重要となってきます。この力を育むのが「コンピュテーショナル・シンキング(Computational Thinking)」力の獲得です。
コンピュテーショナル・シンキングとは、問題にどう取り組み、解決に向かわせるのか?という思考プロセスを誰にでもわかるように表現(説明)すること。つまり、問題解決の手順を前もって(=pro)書いたもの(=gram)が、プログラムというわけです。石塚教授は、このコンピュテーショナル・シンキングを初等教育から導入するために、小学校と連携して新しい教育方法を開発中です。
また、プログラミング的思考は、コンピュータという機器を使う場面だけで活用するものではありません。その3大原則は「(1)順序」「(2)条件分岐」「(3)反復」です。
たとえば、小学生に「運動会の“プログラム”ってどんなのかな?」と考えてもらい、上から「順番に」書かれたイベントをこなすものだと「順序」への理解を促します。また「雨なら傘をさす、晴れなら帽子をかぶる」で、条件分岐のif構文を説明。反復は、3ケタの足し算を例に、繰り上がりを各桁で「同じ様に繰り返す」と解説します。これが、小学生でもすでに知っていて実行している事例になります。
小学生にとっては、言葉だけで「(1)順序」「(2)条件分岐」「(3)反復」を理解することは難しいことです。そこで石塚教授が考案した授業は、体と頭の両方を使ってプログラミングを学ぶ、新しい学習スタイルです。
たとえば、低学年では授業の前半は体育館で、実際に決められたルールで体を動かしてみます。床には紙が縦と横に整然と一面に敷きつめられ、そのうちの1枚のみが宝箱です。宝箱に行き着くには、「前」「後」「右」「左」と順番を決めて1ステップずつ進む必要があります。失敗しながらも、自分で体を使って「順序」を理解します。こうした方法を「アンプラグド」といいます。
授業の後半は、アンプラグドで学んだことを、ゲーム感覚でプログラミングを学べるアプリ「コット」で確認します。このアプリは石塚教授とプロのゲームプログラマーとの共同開発で完成したもの。ゲームログを解析することで、さらなる改良も検討中です。この他にも、自作プログラムとセンサーを組み合わせた機器制作の時間もあります。いずれも、児童の反応や先生の意見を取り入れ、より豊かで創造的な授業のあり方を研究中です。
これらの授業がめざすのは、児童が「プログラムを書くこと」ではなく「書いたプログラムを説明できること」。それが未来のイノベーションに必要なコンピューテーショナル・シンキングだからです。
未来に続く創造的な授業。新鮮で楽しい石塚教授の授業に魅了され、「サインして!」と帽子を差し出す児童もいるとか。
今後日本の人口は減少するため、多くの作業はAIに置き変わっていくことが予想されます。けれども、AIが指示通りの作業をしているか判断し、最終的に修正するのは人間。そこで求められるのが問題解決力です。
アメリカ国務省入省試験では、この能力を問う設問も登場しています。AI化が進むほど、高い問題解決能力が求められるようになります。そんな未来を見すえた情報科学教育を進められれば、日本の未来はきっと明るいはず!
各種取材や研究に関することなど、
お気軽にお問い合わせください