私たちの生活を支える文明社会は、モノとモノをより分けることから成り立っているといえるかもしれません。モノづくり、環境保全、資源供給など、数多くの場面で「分離」の技術が活用されています。
田中講師は、食品から水の浄化、そして代替エネルギーまで、液体から固体を分離するための研究に取り組んでいます。
実験室で開発された新素材を「商品」として流通させるためには、同じものを大量生産する必要があります。単純にフラスコの数や容量を増やすだけでは、同品質のものを効率的に作ることはできません。工業生産の装置や操作を研究する技術を「化学工学」といいます。
工場での生産システムには、原料調達から廃水・廃ガス処理まで多くの工程がありますが、中でも必要なものと不要なものを分ける「分離・精製」は生産コストに大きな影響を与えます。この「分離・精製」プロセスで必要となってくるのが、固液分離の技術です。
田中講師は、固液分離におけるろ過の研究で、日本屈指の専門家として活躍しています。
たとえばビール工場。酵母を含んだビール醸造液をそのまま出荷すると、透明度が低く風味も変化するため、大規模工場では多孔質(多くの細かい穴を持つこと)の珪藻土を使ってろ過し、酵母を取り除きます。このように液体にろ過機能のある物質を入れる方法を助剤ろ過法といいます。しかし、小規模のビール工場では助剤ろ過法を行うことが手間やコスト面で難しい場合があります。田中講師はメーカーと共同で、酵母の同等の大きさである10㎛(=1/100 mm)のスリット(隙間)が入ったウェッジワイヤースクリーンを導入するなど、学生たちとアイデアを出しあいながら、新しいろ過技術を開発しています。
また固液分離には、凝集剤を使う「凝集操作」という方法もあります。
私たちの暮らしに直結する生活排水や工場廃水を浄化し、環境への負荷を低減する上で、必要となる環境技術の1つが「凝集操作」です。廃水中には、汚泥など、水を濁らせている濁質が混ざっており、これを分離するのに、凝集剤が使われます。
凝集剤とはコロイド粒子を凝集(まとめて大きくする)させる物質のことです。廃水に凝集剤を入れると、水中に細かく分散している汚泥のコロイド粒子が凝集します。凝集して大きくなった塊を「フロック」といいます。細かい汚泥がフロックになると沈殿するため、取り除きやすくなるのです。
廃水汚泥用の一般的な凝集剤は、分子が糸のように連なった直鎖状ポリマーが主流でした。しかし、最近は分子が立体的な構造で連なった架橋ポリマーの凝集剤も登場。前者のフロックがごま粒程度であるのに対し、後者のフロックは石ころほどまで大きくなりますが、その要因はまだ未解明です。
田中講師は現在、形成されるフロックのサイズ等、その違いを理論的に解明するべく研究を続けています。たとえば、無機塩を添加することによってフロック形成がどのように変化しているのかなどについても検討をしています。
2010年代、再生可能な生物資源を原料にした「バイオ燃料」の原料として、脂質の豊富なオーランチオキトリウムという藻類が脚光を浴びました。しかし、藻の細胞から水分と脂質を分離するために水分を蒸発させるには大量の熱エネルギーを要することから、ブームは下火に。
田中講師は、この水分と脂質の分離にろ過技術を応用する方法を模索中。動力をほぼ使わないため、代替エネルギー実用化への足がかりが見つかるかもしれません。
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