エンジンや洗濯機など、機械が動くと必ず振動が発生します。この振動は、機械の破損や性能の低下をひき起こすだけでなく、人に不快感を与えることもあります。そのため、振動の原因を明らかにし、その発生を抑えることは機械の高効率化、高性能化、安全性確保における重要な課題となっています。
阿南研究室では、水や空気の流れと関連して起こる振動現象や、エアコン用圧縮機の高効率化のための研究を進めています。
振動はときに重大な問題を引き起します。1995年にアメリカのあるダムで、放流のために100トンもある巨大な鉄製の扉(水門)を開けたところ、それが突然崩壊するという事故が発生しました。
阿南教授は、この水門の崩壊事故には振動が関係していることを突き止め、その原因とメカニズムを解明しました。阿南教授によって解明された水門崩壊のメカニズムは、巨大な水圧を支えるせき板の流水方向の曲げ振動と、扉の巻き上げワイヤーがばねの働きをすることで発生する上下方向の振動が、偶然同じ周期で重なったとき共振現象が発生し、巨大な振動が引き起こされた、というものでした。
阿南研究室では、この水門崩壊のメカニズムをふまえ、二度と同じような事故を引き起こさないよう、安全な水門について研究しています。この研究は、水をせき止めるせき板を重くすることで流水方向の曲げ振動を起こりにくくするのではなく、巻き上げワイヤーを柔らかくすることで上下方向の振動を抑えるという考え方で進められています。ガチガチに補強した頑丈な構造物を作るのではなく、柔らかいワイヤーでゆったり支持することで共振を避けるという逆転の発想です。現在、研究室では、大きな水門モデルを使った実験を進めています。
阿南研究室では、もっと小さくて身近な機械にも着目しています。その一つが、エアコンの心臓部である圧縮機(コンプレッサー)です。
ほとんどのエアコンでは、冷媒の圧縮による温度上昇と膨張による温度低下を繰り返しながら、室外と室内の熱を交換しています。阿南研究室では、学校や工場などでよく用いられているエアコンの室外機に内蔵されている「スクロール型」と呼ばれる圧縮機について研究しています。
圧縮機の中には、固定スクロール(固定渦巻)と旋回スクロール(旋回渦巻)が組込まれており、旋回スクロールの旋回運動にともなって圧縮気室の容積を小さくしていくことで冷媒を圧縮する仕組みです。振動が少なく静かで、効率が高いという特徴があります。現在、世の中全体が、持続可能な社会に向け動き始めており、使用される冷媒は、今後、より環境負荷の小さいものになっていきます。環境負荷の少ない冷媒は、熱交換性能も低くくなる可能性があり、その場合にでも、現在と同じエアコンの性能を実現するためには、今よりも大きな室外機が必要になります。
阿南教授は、予測される未来に向けて、渦巻部品の摩擦や振動を極限まで減らして、圧縮機の効率を上げるための研究に取り組んでいます。室外機を小型軽量化するための圧縮機部品の形状や、材質などの検討をはじめ、機械の効率を向上させるために必要な、地道な研究が続けられています。
アメリカでダム水門の破壊が起こった当初、研究者たちはなぜそんな現象が起こるのか?と首をひねりました。機械工学は人々の暮らしの安全を守り、便利さ・快適さを叶えるさまざまな技術を生み出してきました。けれども、こうした新技術が想定外の危険をはらんでいることもあります。そのリスクを回避し、さらなる新技術へと応用していくのが機械工学の役目とも言えます。
地球温暖化や気候変動など、今までの常識を超えた数々の問題に、モノづくりの技術がどんな答えを出してゆくのか。これからの機械工学に期待が高まります。
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