ANAMI Keiko
工学部 機械工学科 教授
大学院 工学研究科 工学専攻制御機械工学コース 教授
博士(工学)
大阪電気通信大学
水理構造物の流体関連振動 / 空調用圧縮機の最適設計
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城の石垣に興味があり、時間があるときによく見に行きます。その美しさはもちろん、石の積み方や勾配など、技術の高さに感心して見入ってしまいます。

機械の振動メカニズムを明らかにして 
人々の安全や快適さを守る

エンジンや洗濯機など、機械が動くと必ず振動が発生します。この振動は、機械の破損や性能の低下をひき起こすだけでなく、人に不快感を与えることもあります。そのため、振動の原因を明らかにし、その発生を抑えることは機械の高効率化、高性能化、安全性確保における重要な課題となっています。
阿南研究室では、水や空気の流れと関連して起こる振動現象や、エアコン用圧縮機の高効率化のための研究を進めています。

100トンもある巨大水門が破壊される!? 
振動による崩壊メカニズムを解明

振動はときに重大な問題を引き起します。1995年にアメリカのあるダムで、放流のために100トンもある巨大な鉄製の扉(水門)を開けたところ、それが突然崩壊するという事故が発生しました。

阿南教授は、この水門の崩壊事故には振動が関係していることを突き止め、その原因とメカニズムを解明しました。阿南教授によって解明された水門崩壊のメカニズムは、巨大な水圧を支えるせき板の流水方向の曲げ振動と、扉の巻き上げワイヤーがばねの働きをすることで発生する上下方向の振動が、偶然同じ周期で重なったとき共振現象が発生し、巨大な振動が引き起こされた、というものでした。

阿南研究室では、この水門崩壊のメカニズムをふまえ、二度と同じような事故を引き起こさないよう、安全な水門について研究しています。この研究は、水をせき止めるせき板を重くすることで流水方向の曲げ振動を起こりにくくするのではなく、巻き上げワイヤーを柔らかくすることで上下方向の振動を抑えるという考え方で進められています。ガチガチに補強した頑丈な構造物を作るのではなく、柔らかいワイヤーでゆったり支持することで共振を避けるという逆転の発想です。現在、研究室では、大きな水門モデルを使った実験を進めています。

水門扉の実験用モデル
共振現象を解明した時の経験から、実験用モデルはかなり大きなサイズで設計。実際の水門で起きている現象が正確にとらえられる。研究にかける阿南教授の思いが込められた、こだわりのモデル
実際の水門の動きをシミュレーション
実際の水門を加振してその応答を計測、分析し、巻き上げワイヤーがばねの働きをすることによる上下方向の振動と、巨大な水圧を支えるせき板の曲げによる流水方向の振動の2つの固有振動モードを確認。せき板の流水方向の振動は、空中ではかなり振動数が高いが、水中では上下方向振動と同じくらいの振動数まで低下する。これらが同時に発生することで激しい振動に成長することを突き止めた

環境負荷の小さい冷媒でも
エアコンの効率を上げるには!?

阿南研究室では、もっと小さくて身近な機械にも着目しています。その一つが、エアコンの心臓部である圧縮機(コンプレッサー)です。

ほとんどのエアコンでは、冷媒の圧縮による温度上昇と膨張による温度低下を繰り返しながら、室外と室内の熱を交換しています。阿南研究室では、学校や工場などでよく用いられているエアコンの室外機に内蔵されている「スクロール型」と呼ばれる圧縮機について研究しています。

圧縮機の中には、固定スクロール(固定渦巻)と旋回スクロール(旋回渦巻)が組込まれており、旋回スクロールの旋回運動にともなって圧縮気室の容積を小さくしていくことで冷媒を圧縮する仕組みです。振動が少なく静かで、効率が高いという特徴があります。現在、世の中全体が、持続可能な社会に向け動き始めており、使用される冷媒は、今後、より環境負荷の小さいものになっていきます。環境負荷の少ない冷媒は、熱交換性能も低くくなる可能性があり、その場合にでも、現在と同じエアコンの性能を実現するためには、今よりも大きな室外機が必要になります。

阿南教授は、予測される未来に向けて、渦巻部品の摩擦や振動を極限まで減らして、圧縮機の効率を上げるための研究に取り組んでいます。室外機を小型軽量化するための圧縮機部品の形状や、材質などの検討をはじめ、機械の効率を向上させるために必要な、地道な研究が続けられています。

エアコンにおける熱交換(ヒートポンプ)
エアコンには、熱を汲み上げて移動させることで、別の場所を冷やしたり温めたりするヒートポンプと呼ばれる技術が使われている。冷媒と呼ばれる流体が、室外機と室内機の間を移動しながら、空気中にある熱を運んでいる。暖房時には、低温の冷媒ガスが圧縮されて室内よりも温度が高い状態になり、それが室内に移動することで熱を部屋の中に運んでいる。室内に熱をおろした冷媒は膨張弁(減圧機)で減圧され外気よりもさらに低温になり、外気から熱を受け取る。それを繰り返すことで室内を温めている
スクロール型圧縮機の圧縮方法
圧縮機の中には、固定スクロール(固定渦巻)と旋回スクロール(旋回渦巻)が組込まれている。旋回に応じて圧縮気室の容積が変化することで、外周で閉じ込んだ冷媒が中心に向かって徐々に圧縮される

環境が変わることで、想定外の現象が!
モノづくりならではの答えとは

アメリカでダム水門の破壊が起こった当初、研究者たちはなぜそんな現象が起こるのか?と首をひねりました。機械工学は人々の暮らしの安全を守り、便利さ・快適さを叶えるさまざまな技術を生み出してきました。けれども、こうした新技術が想定外の危険をはらんでいることもあります。そのリスクを回避し、さらなる新技術へと応用していくのが機械工学の役目とも言えます。
地球温暖化や気候変動など、今までの常識を超えた数々の問題に、モノづくりの技術がどんな答えを出してゆくのか。これからの機械工学に期待が高まります。

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