人類よりずっと前から地球に生息している植物。植物はさまざまな種類があり、また成長の過程においても姿を変えていきます。
谷垣研究室では、こうした植物のカタチを、計測工学から力学的に解き明かすことで、植物に秘められた「シンプルでかしこいメカニズム」の発見に挑んでいます。
空気抵抗を抑えるために、カワセミの頭の形を新幹線のデザインに取り入れる。野山で衣服に貼り付く植物・オナモミ(くっつき虫)のフック状の棘を真似てマジックテープを作る。こんな風に、動植物の生物のカタチと機能の関係をまねして、ものづくりに活かす学問をバイオミメティクス(Biomimetics=生物模倣工学)といいます。
谷垣准教授が注目した生物は、きゅうりの巻きひげです。何世紀にもわたって植物学者を夢中にさせ、ダーウィンも「よじ登り植物」と名付けて注目していましたが、巻きひげのらせん構造がどう形作られるのかは、遺伝子や細胞を見ても明らかにされませんでした。そこで、谷垣准教授は、生命科学ではなく材料力学から説明できないかと考え、時間経過や環境の変化に伴う巻きひげの変化を360度写真撮影による3Dスキャンで計測しました。
巻きひげはつかまるものを探して伸びていき、ものに触れると、らせん状に巻きつきます。そして、巻きついていない部分は触れている部分と反対回りのらせん状になり、よく見かける、くるくるとしたコイル状になります。
この撮影データを基に、巻きひげの曲率と捩率を割り出し解析すると、らせん構造は、巻きひげそのものがねじれているわけではなく、水分量の変化によって一部分が縮むことによってねじれが生じる、実にシンプルなメカニズムだとわかったのです。
動物の腕ならば、何種類もの筋肉や骨と関節を組み合わせることで、ようやく上によじ登ることができます。ところが、巻きひげの中には水分や養分をやりとりするための維管束以外の特別な組織はありません。実は、細胞から水分が排出され縮むことが大元の原因となっていて、その縮み方のバランスが崩れることにより自然とコイル状の形状になるのです。同時に、コイル状の巻きひげはスプリングバネの役割も果たし、きゅうりの実の重さを支えます。
このシンプルなメカニズムをそのままソフトロボットに応用し、たとえば巻きひげの組織は電圧ポリマーに、水分調節は電気信号に置き換えれば、人工筋肉として応用利用できるかもしれません。
さらに谷垣准教授は、3Dスキャンでポトスの葉も計測。撮影データを分析すると水分が充分足りている時には、葉がVの字に谷折りになって光合成のためのより広い表面積を支え、逆に水分が足りない時には葉がしなびて下を向き、さらなる太陽光から身を守る状態になっていることが観察できました。この形状変化は、茎からつながる葉柄と葉脈周辺の水分調節だとわかりました。今後さらにデータを取って研究を進める予定です。
こうした研究が可能になったのは、植物を生きたまま、しかも触ることなく(非接触)正確に計測できる技術が発達したから。より詳細な計測と解析が進めば、葉の展開のしかたをモデルにした太陽電池パネルが誕生するかもしれません。
ボタンを押せば形を変えるのは昔のマシン。センサーが検出した数値に応じて制御されるのが現在のマシン。
そして、植物の様に材料そのものが環境に応じて自動的に変化してくれるのが未来のマシン。バイオミメティクスが進めば、高速道路で空気抵抗に応じて変形してくれる自動車も現実になりそうです。
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