タンパク質や細胞は1mmの1000分の1の1μm(マイクロメートル)。さらにその1000分の1が1nm(ナノメートル)で、原子は0.1nm。
影島研究室では、この極小スケールの世界でモノを計測する技術を使って、物性やモノが起こす現象のメカニズムを探っています。
私たち生物を構成するタンパク質は、水の分子と相互作用して機能を表します。タンパク質表面と接しているのは、数層分の水分子です。影島教授は、「液体を分子数層分の狭い空間に閉じこめると水分子は自由に動けなくなるため、液体でありながら固体的な特質も持つのではないか?」といういくつかの報告に基づいて、この水分子の性質を実証するため原子間力顕微鏡(AFM)を用いた粘弾性計測を行いました。
原子間力顕微鏡とは、走査型プローブ顕微鏡(SPM)の一種で、分析する水分子の表面と探針の原子間にはたらく力を検出して画像を得る顕微鏡です。原子間力はあらゆる物質の間で働くため、ほかの走査型顕微鏡(トンネル顕微鏡 (STM)/電子顕微鏡 (SEM) )に比べて、応用範囲が広いのが特徴です。また大気中や液体中などさまざまな環境で、最も自然に近い状態で測定することが可能です。
実験の結果、水分子には通常の室温の水とは異なる特性が見られました。
計測では、針と基板の間に挟まれた水の分子の層の厚さが、3層→2層→1層と薄くなるにつれ粘性も弾性も高くなる、という結果が得られました。また、その変化が階段状であることから、粒としての性質があることも推察されます。この、計測結果は、今後タンパク質の構造などをめぐる生命現象の謎を解くための貴重な手がかりとなるかもしれません。
石英などの鉱物を擦り合わせると光を発する現象があります。この発光現象はトライボルミネッセンスと呼ばれ、数十年前までは固体の摩擦で起こる熱輻射だとされていました。しかし、可視光を発するような熱輻射の身近な例である太陽の表面は6000℃。それほどの高熱は発生しないため、熱輻射説は否定され、トライボルミネッセンスは原子レベルの現象で、摩擦で物質の化学結合が切れる際にエネルギーが光として放出される現象だと考えられるようになりました。発光の際には、物質内に含まれる不純物原子が重要な役割を果たしているという説もあるため、ミクロなメカニズムを探るために、接触面積や摩擦範囲を極限まで小さくして、ナノメーターサイズの摩擦を起こし、可視光の発光をとらえるべく実験を重ねています。
水晶は交流電圧をかけると振動し、電荷信号を発する性質を持ちます。この性質を利用した電子部品のひとつが「音叉型水晶振動子」です。これをダイヤモンドの基板に接触した状態で振動させ、摩擦によって発された微弱な光を光電子増倍管でとらえようと、研究室では計測装置を試作中です。
光をとらえることができれば、往復の摩擦運動と発光のタイミング、発光する場所の空間的な分布などのデータが収集でき、発光現象解明の大きな一歩となりそうです。
影島研究室では関西医科大学と共同で、細胞核の病理変位を力学的に計測するための研究に取り組んでいます。これも、水分子よりは大きいものの極小の世界です。
またトライボルミネッセンスの発光検出技術が発展すれば、地震を引き起こす地中の断層すべり(摩擦)を発光現象から補足し、地震予知ができるようになるかもしれません。極小の世界は、私たちの健康や防災へのヒントがつまった世界なのです。
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