フィル・ウッズへの憧れをきっかけに、ラテンジャズのビッグバンドでサックスを担当。学生と話すのが好きで、研究室のドアは年中開放中。学生がプレゼントしてくれたホットプレートで、たこ焼きパーティーをする日が待ち遠しいです。
2023年11月、メディアでも大きく報じられたアマテラス粒子(宇宙線)。宇宙線とは宇宙空間を飛び交う放射線のことです。地球にも飛来していますが、太陽からの宇宙線以外は、どこから来て、またその正体は未解明です。
多米田准教授は、アマテラス粒子を検出した研究グループの発足時からのメンバーとしてアメリカの観測施設でデータを収集し、「最高エネルギー宇宙線」の謎に挑んでいます。
宇宙線が最初に発見されたのは、100年以上前。特に「最高エネルギー宇宙線」は、素粒子1個分で10ジュールのエネルギーを持ち、そのエネルギーがあまりに高いためオーマイゴット粒子と名付けられたほどです。
10ジュールとは、ボーリングで球を転がす程度のエネルギーです。けれども、素粒子はとても小さく、原子1個を野球場の大きさに拡大しても、その中にある素粒子の大きさはピンポン球程度です。その1個が10ジュールというエネルギーの高さは、世界最大の加速器を使って創り出せるエネルギーより数ケタ上なのです。
宇宙線のエネルギーが高ければ、宇宙空間を飛ぶ際に磁場の影響を受けにくいため、曲がることなく直進します。つまり、どの天体から来たのか、その起源を同定できます。また、最高エネルギー宇宙線は全方向から到来するのではなく、頻出する場所=ホットスポットがあり、その場所は、天の川銀河の外側だと予想されているのです。
より正確な同定には、最高エネルギー宇宙線のデータを多く集める必要があります。しかし、エネルギーが高い宇宙線ほど到来頻度が少なく、1平方キロメートルあたりで1年に1個です。つまり、データを効率的に集めるには広大な敷地が必要となります。
天の川銀河の外側を観測できる広大な場所として選ばれたのが、アメリカ・ユタ州の砂漠地帯。びわ湖に相当する700平方キロメートルの敷地に観測機器を配置し、2007年から最高エネルギー宇宙線を常時観測しています。これが、日米を中心とした「テレスコープアレイ(TA)実験」で、多米田准教授はプロジェクト発足時からのメンバーです。
宇宙線が大気中に入ると、大気中の原子核とぶつかって大量の粒子が発生します。「宇宙線空気シャワー」と呼ばれるこの粒子を、TAでは2つの方法で観測します。
1つは、「プラスチックシンチレータ」と呼ばれる地表粒子検出器を敷地内に507台敷きつめ、どの台にどのタイミングでどれくらいの量の粒子が来たかを測定する方法です。
もう1つは、敷地内の3箇所に大気に向けた望遠鏡を設置し、粒子が発生する際に放つ蛍光を撮影する方法です。この蛍光は数ナノ秒しか光らず、肉眼では捉えられません。そこで多米田准教授は、12.8マイクロ秒ごとに、画角内のわずかな変化をチェックして判定するカメラと、撮影したデータを解析するソフトを自ら開発しました。
このプロジェクトは、さらに敷地を4倍にする「TA×4」として大規模化しつつあります。この動きに対応するためフレネルレンズを採用した新しい望遠鏡の開発にも取り組んでいます。
2023年11月、多米田准教授をはじめとする国際研究チーム(大阪公立大学ほか)が発表した「アマテラス粒子」は、このTA実験によって検出されたものです。アマテラス粒子は、2021 年 5 月 27 日に検出された宇宙線で、極めて高いエネルギー(244 エクサ電子ボルト)を持ち、2008 年の実験開始から現在までの 15 年以上にわたる実験史上最大のものでした。到来方向には発生源候補となる天体は存在せず、未知の天体現象や暗黒物質(ダークマター)の崩壊など、標準理論を超えた新物理起源の可能性を秘めています。
天文学は観測技術とともに発達し、地動説・他の銀河・ブラックホールなどを観測し、宇宙の地図を広げてきました。可視光、電波、赤外線、紫外線、ガンマ線、X線などさまざまな電磁波を使う観測を「多波長天文学」といいます。
一方、重力波・ニュートリノ・宇宙線など粒子に注目して観測する天文学が、今注目を浴びる「粒子線天文学」。新しい見方が加わることで、人類は宇宙の謎にさらに近づきそうです。
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