クラシック音楽、中でもオペラ歌曲を好んで聴いています。きっかけは映画『アマデウス』だっため、「魔笛」は特にお気に入りです。健康維持のために、気が向いた時はキャンパスの周囲をジョギングしています。
私たちの足元の下にある地中の世界。それは地上の世界と違って簡単に見ることはできません。しかし、安全に建造物を建てるためには、地中の状態を知る必要があります。
海老原教授は、電波を使って地中を3次元計測する「指向性ボアホールレーダ」の学術研究において日本唯一の研究者。最新研究では、高精度な地中観測を実現する新しい技術を開発しています。
地中は全てが同じ物質でできているわけではありません。土の質が異なり、不均質であったり、古い建物の基礎杭が残っていたりします。そうした地中の状態を知らないと、新しい建築物などを建てる際に支障がでて、時には地盤沈下などに繋ってしまいます。そこで地中の物体を探すため、直径10㎝ほどの縦穴(坑井)を掘削すること(ボーリング)が確実でよく行われます。しかし、坑井から離れたところがどのようになっているかは全くわかりません。
この坑井をさらに利用し、坑井から電波を使うボアホールレーダがあります。計測用の直径10㎝ほどの縦穴(坑井)にダイポールアンテナを入れ、電波を送信。目標物体で反射して戻ってきた垂直偏波を受信し、受発信にかかる時間から距離を算出します。これを日本に初めて持ち込んだのが海老原教授の学生時代の指導教員でした。しかし、この方法には「アンテナと目標物体との距離」はわかっても、アンテナに対して東西南北、上下のどの位置にあるのかがわからない、つまり「3次元的な位置がわからない(無指向性)」という課題がありました。
そこで、海老原研究室では、複数のダイポールアンテナを円状に並べて、各アンテナの送受信時間差から3次元位置を推定する指向性ボアホールレーダを開発。2014年には特許[1]取得しました。 この技術はJSTの技術移転プログラム[2]により地質調査企業である松永ジオサーベイ株式会社に移転され、建築物の基礎杭の測定ほか、日本全国のさまざまな地質調査の現場で使われています。
最近では、海老原研究室は指向性ボアホールレーダの可能性をさらに広げる研究成果を発表しました。
これまでの垂直偏波を受発信するダイポールアンテナに加え、水平偏波を受発信するループアンテナを設置。この機能が追加されたことにより、垂直-水平偏波の受発信を自在にコントロールすることで電波の振動方向を割り出し、目標物体の形状を推定することが可能になりました。ひとつの坑井で、3次元の位置関係と形状を同時に計測できる可能性があり、国際的にも日本発の技術となっています。
形状を計測することができれば、経年劣化や地震等で生じた基礎杭の変形を検知することができるかもしれません。また、岩石中の断層や亀裂などに透水性(水を通す性質)があるかどうかの情報が取得できるかもしれません。透水性があれば、有害物質が地表に染み出してくる危険性がある、と判断できます。このため、透水性か非透水性かを知ることは、安全のための重要な判断基準になります。
海老原研究室では、新しい「物体判別機能」が理論的には可能であることを明らかにしてきました。今後は地中調査の現場で作動させるため、実装実験を行っていく予定です。この技術は、社会の大きな課題のひとつである高レベル放射性廃棄物地層処分にも貢献します。廃棄物を地中の奥深くに格納して処分するには、岩盤内の水みちを三次元的に明かにする必要があります。暮らしを安全・安心に守る技術は、もうすぐ本学から誕生します。
地熱発電はCO2の排出量がほぼゼロの「再生可能エネルギー」。開発の第一歩は、蒸気や熱水が溜る「地熱貯留層」の探索です。
海老原研究室では、JOGMECから三井金属資源開発株式会社へ委託された研究調査プロジェクト[6]に協力し、ボアホールレーダが地熱探査にどのように貢献できるかの調査研究にも取り組みました。世界的にも地熱資源の豊富な日本。温泉文化との共存ができれば、エネルギーの未来がさらに明るくなりそうです。
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参考文献
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