HAMADA Toshiyuki
工学部 電気電子工学科 准教授
大学院 工学研究科 電子通信工学コース 准教授
博士(工学)
宮崎大学
エネルギーレジリエンス強化を目指した再生可能エネルギーの診断・評価・安全技術
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子どもの頃から山や海・川で虫や魚を採集するのが大好きで、大阪に来てからも、できるだけ機会をみつけて息子と生き物採集や釣りに行っています。自宅では金魚やドショウ、カブトムシなどを飼育。研究室にいるグッピーは数少ない癒しの存在です。

災害大国日本で安全な太陽光発電システムを追究!  
安全で安心な太陽光発電の発展を目指す

2012年にFIT制度が施行されて以降、太陽光発電は一気に普及し、今や住宅用だけでも300万件に到達するほど。普及に伴い、災害や不具合(故障)から生じる「火災」や「感電」事故の可能性も見えてきました。
濱田研究室では、こうしたリスクを回避するシステムの構築や、太陽光発電のレジリエンス強化に向け、実地研究を行っています。

雷が火災のリスクに!? 
太陽光発電システムの故障メカニズムを検証

濱田准教授は宇部高専・大島商船高専・津山高専・米子高専の4校と共に、安全で安心な太陽光発電の発展に向け、現場の状況を重視した共同研究を続けています。

最初に取り組んだテーマは「雷による太陽光発電システムの故障メカニズムの解明」。発端となったのは、実際に太陽光発電を設計・施工する技術者らが、現場で目撃してきた事故故障の相談です。

光さえあれば発電できるのが太陽光発電の最大の利点。しかし、逆に言うと光が当たっている限り発電を止めることはできない。設備が故障や損壊すると、発電したエネルギーが故障した箇所にも流入し、焼け焦げて火災に発展するケースも

太陽光パネル(太陽電池モジュール)の設置現場では、積乱雲が通過した後に、太陽光パネル内のバイパスダイオードが煙を上げて焼け焦げる現象が発生していました。バイパスダイオードとは、太陽光パネル内で導通不良や部分的に影がかかったときに起こる、太陽電池の発熱現象(ホットスポット)や出力低下を避けるため正常なパネルで発電した電流を迂回させるための電子回路部品です。また、事故の状況から落雷が原因である可能性が高いですが、対策するには実際に故障に至る仕組みを知ることが必要でした。

太陽光パネルが通常(正常)に機能しているケースとパネルの一部に影(故障)が発生しているケース
BPDが正常に機能している時は、電流を迂回させられるが、BPDが故障し電流を迂回できないまま発電が続くと部分的に発熱、焼け焦げ現象が発生する

既に一般住宅への屋根上設置が普及している日本の太陽光パネル。

太陽光発電の焼損事故は、火災をはじめ人々の命を危険にさらす重要インシデントになると濱田准教授は考え、太陽光発電の焼損現象の原因究明に取り組みました。被害パネルを調査し、落雷模擬実験を繰り返す中で、バイパスダイオードの故障は、落雷による電流が太陽光パネルの金属フレームなどの近くに通過するだけでも起こることを解明しました。また、焼け焦げてしまうのはバイパスダイオードが故障したあとに、太陽光パネル自身が発電したエネルギーによるものであることを明らかにしました。さらにそのバイパスダイオードは0.1〜10Ω程度の抵抗値で故障すると焼損に至るリスクが高くなることを明らかにしました。

誘導雷による焼け焦げ現象を検証する落雷模擬実験のデータ
左)BPDが故障する抵抗値(横軸:Ω)は、0.1〜10Ω程度であった
右)故障したBPDの発熱量(縦軸:W)計測では、0.1〜10Ωで故障した際に最も発熱・焼損の危険性が高まることが分かる

故障の防止・故障の検知・故障後の安全対策と 
各段階で安全な太陽光発電を実現する技術

この件をきっかけに、濱田研究室では現在、太陽光発電の安全活用に向け、さまざまな安全フェーズでの技術開発にも取り組んでいます。

まずは、故障の予防。バイパスダイオードは現在「シリコンショットキーバリアダイオード(SBD)」が主流です。このダイオードは、逆方向耐電圧が低く、今回のような雷被害が発生しやすくなっている可能性があります。そこで、高い耐雷性能と長期で使用できる耐久性を備えたダイオードの材料や仕様を探求すべく耐久性評価を行っています。

次に故障の検知。少しでも早く故障を見つけることができれば、被害を最小限に抑えられます。現在、太陽光発電が正常に機能している時と故障発生時の発電電圧や電流、電力のデータを収集中。今後は蓄積したデータをAIに学習させ、故障検知システムを構築する予定です。

最後は、事故時の安全対策。火災や事故が発生した後の消火活動や撤去作業では、感電への注意も必要です。そこで現在、事故後の現場作業員を守るため、事故や災害時は感電リスクのないレベルまで電圧を下げられる「ラピッドシャットダウンシステム」を開発中です。これは太陽光パネル同士の接続を切り離す構造で、暴風や土砂崩れでパネルが飛んだり、流れたりした時は自動的に作動する仕組みで考えています。実用化すれば、太陽光発電はさらに安全なエネルギーとして浸透しそうです。

濱田研究室では、雷に限らず現場の声を重視し、地震や台風など日本の自然環境を見据えた技術開発に努めています。

太陽光パネルに影がかかったときは、発電特性に違いが見られることから、BPDの故障を判別することができる。これにより、人工影を使った早期の故障診断が可能になった
緊急時は直列に接続された太陽光パネル同士の接続をリレー(スイッチ)で切り離す(※実際はさらに電圧を低下させるためにダイオード負荷で太陽光パネルを閉路する)

太陽光発電の安全性を確保し、安心を届ける
開発製品が社会実装される日も近い!?

研究を通じて、安心安全なエネルギーの活用に貢献したいと願う濱田准教授。そのルーツは自治体勤務時代、発電や防災事業に関わった経験にあります。太陽光発電はメンテナンスフリーでクリーンなエネルギーというイメージがありますが、そもそもは工業製品。自動車などと同じで、使い方や状況によっては危険な事故に発展することも。最低限の安全対策や定期的なメンテナンスは必要不可欠。
人々の役に立つ研究をすること。新しい技術者を育てることを目標に、教育・研究職に戻った今、その成果の一部が、実用化を目指した研究開発プロジェクト(NEDOプロジェクト)として進行中です。

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