中田研究室が取り組むのは、ダム湖の水質保全、農作物の霜害防止など実社会に直結した研究テーマ。水や空気などの動きを研究する流体力学、その延長線上にある気象学、そこに機械工学を駆使し、社会のインフラ設備などさまざまな環境課題の解決に挑んでいます。
中田教授がここ10年ほど取り組んでいるのは、ダム湖における曝気循環装置の開発です。
ダム湖では水が長時間滞留するため、春から夏にかけての日差しで表面近くの水が温められ下層の冷たい水と混ざりにくくなる現象が発生します。この状態が続くと、下層には酸素がいきわたらなくなり、ダム湖で生息する生き物の生態系に影響が出てきます。
またダム湖の底辺にある低温層で酸素欠乏状態が発生すると、嫌気性微生物が活発化し、湖底の有機物を分解した結果、硫化水素ガスなどが発生し悪臭を放つなどさまざまな問題が発生します。
中田教授は、この温度差によって発生するダム湖水の成層化問題を解決するべく、水資源機構や装置メーカーとの共同研究で曝気循環装置の開発と評価・検証に取り組んでいます。循環装置の開発では、ダム湖の中の暖かな水と冷たい水を混流させるのではなく、深層の水にだけ酸素を溶け込ませる手法をメインに、効率的な深層曝気装置の開発に挑んでいます。模型による実験・シミュレーションはもちろん、実際に現地でダム湖水をサンプリングし、水質調査によって装置の効果を検証しています。
水とともに空気の動きも流体力学のテーマです。
たとえば、茶畑や梅園など農園で発生する霜害。春や晩秋の夜間に地表数メートルが冷えて霜が降り、新芽や花・実などが育つのを阻む現象です。中田教授は、ここでも効率的で新しい防霜装置の開発に取り組んでいます。
既存の防霜対策は、上空の暖かな空気を地表近くに送る防霜ファンが実用化されていますが、電力コストや騒音、さらに梅園や茶畑といった伝統的な景観を壊さないこと、など課題が残ります。できるだけコンパクトな設計で風景を邪魔せず、下層の冷気だけを吸い込み、上層と同程度の温度にして返す高効率の装置の開発。中田教授の防霜装置は、現在、農園での実証実験に入っています。
水や空気の動きをテーマとする流体力学。研究から生み出される未来の暮らしは、美しい風景を守りつつ、美味しい茶葉や果物を育むための装置や、人工的に造られたものの弱点を補う装置の開発から始まっています。
目に見えないところで、目に見えるものをそうっとサポートする。開発に向けた基礎データと自然の摂理が融合された新しいシステムは、季節の味や香り、自然界の音色や色彩を体感できる豊かな科学技術といえるかもしれません。
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