筋肉が発揮する力、つまり筋力は、一般的に、関節を動かす力を測ることで測定されます。しかし、人体には関節に関係なく働く筋肉もあります。
赤滝教授は、身体を傷つけずに体表面から筋肉の動きや機能を測るための方法として、筋音図に着目。筋音図の特性を探る基礎研究を進めています。
筋肉は筋線維という細長い細胞で構成されています。筋線維は運動神経からの刺激を受けて電気的に興奮します。この興奮は活動電位と呼ばれ、体表面上で筋電図(Electromyogram:EMG)としてとらえることができます。
筋線維は活動電位を引き金に収縮。筋線維は長軸方向への収縮と同時に、側方向に向かって拡大・変形(膨らみ)します。力こぶはこの筋線維の膨らみが原因です。筋線維の拡大変形は一種の圧力波として周囲の組織を振動させます。この微細振動を体表面上で記録したものが筋音図(Mechanomyogram:MMG)です。これは筋線維の収縮による信号なので筋の機械的活動をあらわします。
筋電図も筋音図も筋肉そのものを外科的に切り取ることなく筋肉の働きを評価できる信号です。電気的な活動(筋電図)と機械的活動(筋音図)を同時に分析することで、より明確に筋機能を分析することができます。
筋音図の発見は17世紀と古いですが、その研究が本格的に始まったのは20世紀後半で、まだまだ発展途上の未開発な信号です。
そこで赤滝教授の研究グループは、収縮活動を反映する筋音図に着目。その特性を明らかにする基礎研究を続けています。
赤滝教授は、筋音図の特性を応用した研究にも取り組んでいます。その中には、筋肉が疲労するプロセスや加齢に伴う筋力低下のメカニズムの解明といったユニークなテーマもあります。また、臨床の研究者と共同し、筋疾患の患者さんの筋機能を評価する研究にも携わっています。
筋音図は、顔周りの筋や横隔膜など関節とつながっていない筋肉の機能測定に効果を発揮します。赤滝教授の研究グループは、いま筋肉内で起こっている振動の方向や速度の変化などを判定できる加速度計を活用して筋音図を測定し、筋電図と合わせて筋の機能を評価します。
たとえば、ALSや筋ジストロフィーなど筋の機能が衰える病気で最後まで機能が残るとされる眼の周りの筋肉である眼輪筋の持つ機能の研究もその一つです。また、瞬発力を出すのに向いている速筋(白筋)線維と、持久力を出すのに向いている遅筋(赤筋)線維とでは筋音図の振幅が違うことを応用し、筋疾患の症状を評価する研究なども行っています。
筋音図は、体表面上から筋肉の組成や状態がつかめる技術として注目を浴びています。筋力が衰えていく病気の診断や、治療における薬やリハビリテーションの効果を評価するのに役立つことが考えられます。
また、遅筋線維と速筋線維のどちらが多いのかという筋線維の組成を調べ、向いているスポーツを判断したり、その人に合った効果的な筋力強化につなげることも可能です。筋音図研究のこれからに期待がかかります。
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