とにかく大の読書好き。奈良に引っ越してからは、歴史に関する本をよく読んでいます。また、5年ほど前から自らの健康のため、毎週日曜日は散歩デー。近所を2時間ほどかけて歩きながら、新しい発見や季節の移り変わりを楽しんでいます。
背すじがまっすぐに伸びず丸まっている状態を、医療用語で「円背(えんぱい)」といいます。いわゆる「猫背」は、見た目が悪いだけでなく健康に与える影響も大きいようです。
羽﨑准教授は長年、実験計測によって猫背が身体機能にどのような影響を及ぼすのかを、科学的に研究しています。
「猫背」は背中が丸くなっているだけではなく、頭が前に突き出て、骨盤が後ろに倒れた状態になります。このような姿勢になると、歩幅が小さくなり、歩くのが遅くなるだけでなく、股関節や膝関節が痛みやすくなります。また骨盤底筋が緩んで腹圧がかかりにくくなり、便の排出が困難になります。また尿道の括約筋の収縮が起きにくくなり、尿もれの要因にもなります。
こうした症状は、高齢者によく見られるものなので、まだ若いから大丈夫と安心している人も多いかもしれません。しかし、近年はスマホの普及やパソコンを使ったデスクワークによって、若年層にも猫背が拡大し、さまざまな身体の不調が現れてきています。
羽﨑准教授は、この若年層に対し「猫背がもたらす身体機能への影響」についても、科学的に検証するべく、さまざまな実験を行っています。
たとえば、一般に猫背になると肺活量が減るという指摘があります。このメカニズムを科学的に解明するため、本学の健常男子学生17名の協力を得て実験を実施。まず、姿勢良く座った時と猫背になって座った時とで肺活量に差が出るのか比較測定。その結果、肺活量では姿勢の良い場合に比べ、猫背の状態では平均値で約900ml(18.7%)減少することが分かりました。
また、肺活量は、胸郭の拡張量(肋骨が前上方に広がる量)と横隔膜の上下運動(横隔膜がスムーズに上下することで効率よく呼吸できる)の大きさで決まることから、これらに違いが出るのかについても比較検証。その結果、胸郭拡張量および横隔膜下降距離ともに、姿勢の良い状態よりも猫背の方が、有意に小さくなることがわかりました。
猫背の状態では胸郭の動きが制限され、横隔膜も下行しにくくなるため、肺活量が減少。必然的に呼吸が浅くなります。呼吸が浅くなると、どうしても血中酸素濃度が低くなるため、疲れやすさを感じたり集中力が低下したりします。
頸椎(首の骨)と頭との位置関係を「頸椎アライメント」といいます。猫背になると、頭が前に突き出た=フォワードヘッドの状態になります。
羽﨑准教授は、背筋を伸ばした姿勢の良い状態と、猫背になったフォワードヘッドの状態とでは、舌の力にどのような違いが出るかを比較検証。本学の健常男子学生18名の協力のもと、実験によって科学的に、その違いを明らかにしました。
比較実験では、舌をまっすぐ前に突き出す「舌突出筋力」と、舌を上あごに押しつける「舌挙上筋力」を測定。背すじを伸ばした状態の時に比べて、フォワードヘッドの状態ではいずれの舌筋力も低下することが明らかになりました。若い学生は口腔周辺に問題がないにも関わらず、猫背になるだけで舌筋力が低下してしまいます。背中の丸くなった高齢者の場合は、舌筋力が低下することで食べ物を喉元まで送り込みにくくなり、最終的に誤嚥を引き起こします。
嚥下障害と姿勢との関係は、介護の現場でもあまりよく知られておらず、「飲み込めないなら柔らかい食材に変える」ことで問題解決している事がほとんどのようです。「姿勢と飲み込む力」に関する知識が広まり、姿勢を正すことで得られるメリットが活かされれば、高齢者サポートのあり方や、現場の負担は大きく変わってくると考えられます。
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首を傾けすぎたせいで背中は曲がり、あごを突き出した極端に前屈みの姿勢。70余年後にこうならないためにも、姿勢に対する知識と実践が不可欠です。
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