2022年に報告された医療事故は5,313件にものぼります*1。医療や介護の現場で起こる事故を防止するには、環境の改善に加え、一人ひとりの危険認知力の向上が重要な課題となります。
越野教授は危険認知力を高める教育や指導のあり方を検討する上で重要となる、基礎研究を続けています。
医療事故には確認や観察、判断のミスによるものが多く、事故防止には観察技術や危険認知力を高めることが重要とされています。こうしたスキルを得るには経験が必要であり、模擬演習などによって事故予防や対応の技術を身につける学習が効果的とされています。また一方で、経験を積んだ人でも事故につながるミスをする事例も起こっています。
越野教授はこうした実情をふまえ、個人の性格の違いに着目し危険認知力との関係をテーマに調査・研究しています。調査にあたって、性格の判定には、エゴグラムという5つの指標バランスから性格や思考・行動のパターンを見る方法を採用しています。
この調査の結果、危険認知力と性格の相関関係が明らかとなりました。危険認知力の低いグループでは、冷静に正確に観察・確認するA(表・グラフ参照。成人)の性質や、真面目で責任感を持ち、経験に基づいて価値判断をするCP(表・グラフ参照。批判的な親)の性質が低いことがわかりました。
さらに、現場実習の経験も加味し、性格の違いによる実習前後での危険認知力の向上についても調査。より効果的な安全教育に役立つ研究を続けています。
また教育に関するテーマとしては、理学療法士国家試験の学習状況と成績の相関性について調査・研究しています。国家試験模擬試験の成績によって、受験者を学習特性の似た人ごとにグループ化し、クラスター分析を行いました。
学習特性の分類とグループ化では、自己学習として国家試験の過去問にあたることができるオンラインドリル教材での学習状況を対象に調査。自己学習に取り組み始めた時期や学習量、さらに模擬試験の成績の伸び具合との関連を分析しました。
この調査の結果、成績向上には自己学習の量が大きく影響していることが確認できました。さらに計画的に学習を進める実行力や、つまずきの原因や課題を自分で理解し修正する力も、重要な要素になっていることが明らかになりました。
自己学習を進める力が不足していれば、効果的に学習を進めること自体が難しくなります。この調査結果を受けて、越野教授は、計画的な学習を進めるにはサポート体制を整える必要性があること。さらに、自分の理解の度合いを評価し誤りに気づくことのできるメタ認知モニタリングの力を育ててゆく指導が必要であると指摘しています。
1件の重大な事故の背後には、300件のヒヤリとする経験(無傷事故)があると言われています。重大事故を招きかねない業界・業種では、常にヒヤリ-ハットと呼ばれる事故や重大事故の事例を模したシミュレーションやロールプレイで、事故を回避するための「危険予知トレーニング」が行われています。
特に人材不足が深刻化している医療・介護現場では、もの忘れやうっかりミスが生命の危機に直結します。そのため、性格などパーソナルな部分に着目したこの研究には、事故防止に向けた新たな取り組みとして、期待がかかっています。
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