スポーツで生じやすい膝のケガが「前十字靱帯損傷」です。最も重症度が高い膝のケガで、手術をすると復帰するまでに長い時間がかかってしまいます。
成講師は、前十字靱帯損傷に対して手術をしない「保存療法」として、新しい素材「スチレン系エラストマー」を使った装具(Elastomeric Knee Brace)の開発に取り組んでいます。
バスケットボール・バレーボール・ハンドボール・サッカー・柔道などのスポーツにおいて、選手生命を左右するケガのひとつが「前十字靱帯損傷」です。このケガに対しては手術を行うのが一般的ですが、選手には“手術ができない”あるいは“まだ手術をしたくない”さまざまな事情があります。
たとえば部活動に打ち込む中学生・高校生の場合、最後の試合は、積み重ねた日々を仲間と分かちあう一生の思い出となる日。「最後の試合だけは出たい」という気持ちは切実です。また、プロスポーツの場合は、スケジュールやメンバー調整において「この試合にだけは出なくては」という勝負の世界のシビアな事情があります。
成講師は、こうした「手術をしたくてもできないアスリート」を対象に、患部をしっかり保護し、かつ動きやすい装具の開発に取り組んできました。
装具には、その性質から「硬性装具」と「軟性装具」に分けられます。硬性装具は、その名の通り硬いため動きにくく、試合中に他の人を傷つける可能性もあり、ルール上使用できないケースがあります。軟性装具は、動きやすい反面、患部を保護する力(制動効果)が低いのが欠点です。成講師は、双方のデメリットを克服できる素材を探すことからスタートしました。
成講師が最初に注目した素材はシリコン。素材としては素晴らしいものでしたが、コストが高いのが難点でした。そこで研究協力機関に相談したところ、勧められた素材が、強度が高くゴムのような弾性を持つ「スチレン系エラストマー」でした。
このスチレン系エラストマーを使って開発した装具がElastomeric Knee Braceです。体型に合わせて作る完全オーダーメイドで、靱帯の走行や角度を計算して患部を覆うため、動きやすい上に制動効果もあります。しかも、装着は患部を包んで面ファスナーで留めるだけ。この手軽さも、選手にとっては嬉しい大きな特色となっています。
現在、この装具の開発は全て手作業で行われています。面ファスナーの強度設定やスチレン系エラストマーに適した接着剤の選定。また、靱帯の3次元的な走行を、2次元のシートにどう展開するのかについても試行錯誤を重ねています。
成講師は、研究協力機関と共に、企業・病院・研究機関での臨床研究も行っていますが、被験者(EKBを研究のために装着する人)からは高い評価を得ています。第1目標はアスリート向け装具の完成。ですが、第2目標である“全ての人が障害予防用に使える”装具を完成させるべく、現段階からスキントラブルに関する検証も行っています。研究がスタートして約8年。ケガに悩むアスリートが笑顔になれる日は、もうそこまで来ています。
「試合の日を夢見て練習に打ち込んで来たのに、前十字靱帯損傷で出場できない」…EKBが社会実装されればそんな思いをする人が減っていくはずです。
装着した患者さんからの反応も良好で、医師からは「保存療法としてEKBは有効」との知見を得ています。EKBが完成すれば、部活動やプロアマ問わずスポーツ業界は更に盛り上がりをみせそうです。
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