KIMURA Yoshinori
医療健康科学部 理学療法学科 教授
大学院 医療福祉工学研究科 医療福祉工学専攻 教授
博士(工学)/ 理学療法士
大阪電気通信大学
スポーツ外傷 / 整形外科術後における運動療法技術の開発 / スポーツ理学療法
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休みの日には子どもを連れてキャンプに出かけ、仕事モードのスイッチをオフにしています。キャンプ歴は5年で、テント設営や焚き火などにも慣れてきました。これからカヤックや釣り、料理など、色々なアクティビティに挑戦しようと思います。

進化するスポーツ理学療法 
効果が高く安全な手法の開発

スポーツ外傷で整形外科での手術治療を受けた患者さんは、患部の状態に応じた運動療法や物理療法などのリハビリテーションを通じて機能回復とスポーツ復帰をめざします。
木村教授は、スポーツ外傷の中でも膝関節を専門とし、アスリートの機能回復はもちろん、高齢者の介護予防にも役立つ安全な運動療法の開発をめざしています。

走るときの衝撃を吸収する
膝関節の機能を評価する

走る動作は、歩いたり階段を昇ったりするのに比べて負荷が大きく、難しい動作とされています。衝撃が大きいうえに、足、膝、股それぞれの関節でその衝撃を受け止めてエネルギーに変える制御が必要だからです。

一方、脚の関節がもつ衝撃吸収・制御の機能を評価する方法はいまだ確立されていません。そのため、じん帯や半月板など膝関節を損傷した人が、走る動作を再開するタイミングは、衝撃吸収に必要な機能の回復レベルではなく、筋力やバランスなどの基準で判断されているのが現状です。

木村教授は、膝関節の衝撃吸収能力を評価する方法を研究し、走る動作の再開に向けた基準の確立を目指しています。その中で、片脚のつま先立ちから急激に脚を曲げた姿勢となるモディファイドドロップスクワットという独自の運動を開発。解析の結果、この運動で膝関節に加わる力は、走るときの膝関節の衝撃吸収とよく似ていることを明らかにしました。

さらに、評価法の検証を目的とした調査では、前十字じん帯の再建手術を受けた人を対象に動作解析を行い、モディファイドドロップスクワットでの膝の動きがスムーズにできないと、走る姿勢が非対称で不適切になることを明らかにしました。

モディファイドドロップスクワットは、実際に走るよりも安全に実施することができ、診察室などの狭い場所でも評価できるうえ、安全に膝関節の衝撃吸収機能をトレーニングできます。木村教授は、今後モディファイドドロップスクワットが「走る動作を再開する基準」として認められて普及していくために必要な、より多くのデータ収集と解析を進めています。

片脚のつま先立ちから脱力して急激に踵を地面に接地し、それと同時に膝を素早く曲げて衝撃を吸収する運動。まずは膝を曲げて衝撃を吸収する練習から始める。それが安定した後、膝を曲げた姿勢からすぐに膝を伸ばしてつま先立ちに戻るような連続的な運動を練習し、ランニングでの膝の屈伸に近づけていく
ファイドドロップスクワット
モディファイドドロップスクワットの動きがスムーズにできるようになったら、次はリズム感よく衝撃吸収機能をトレーニングしてみよう
三次元動作解析による膝関節の受ける床反力と衝撃吸収力
スクワット、モディファイドドロップスクワット、ランニング実施中の地面から受ける力(左図)と膝関節に働く力(右図)を解析した結果。スクワットには衝撃がなく膝関節に働く力も緩やかだが、モディファイドドロップスクワットはランニングに類似して足がつくと同時に、衝撃とともに膝関節周りに急激に力が働くことが分かる。しかし、その力の大きさはランニングより小さく、安全に膝関節の衝撃吸収能力の評価とトレーニングが可能と考えられる

座ったままでこんなに効く!? 
目からウロコの筋力トレーニング法

また、スポーツ外傷・障害後のリハビリテーションや介護予防に向けて、安全で効果的な筋力トレーニング法の開発にも力を入れています。

その一つが、ハーフシッティングエクサイズです。木村研究室では、このエクササイズの一連の動きについて、3次元動作解析装置と筋電図によって分析。スクワットに比べ、膝関節に加わる不要な負荷は小さいにも関わらず、大腿四頭筋やハムストリングスの筋活動を増加させることを明らかにしました。このエクササイズは座ったまま運動できることから本質的に安全で、しかも「走れない」「満足に歩けない」といった状態の人でもトレーニングすることができます。このような安全性を担保しながら高い運動効果を得るハーフシッティングエクササイズは、ほかの運動に優れる特徴を持っているといえます。

木村研究室では、ハーフシッティングエクササイズのほかにも、幅広い年齢やニーズに応える安全な筋力トレーニングを開発中です。スポーツ選手のリハビリテーションだけでなく、高齢者の介護予防・健康増進など、社会のニーズに応える新しいトレーニング法の確立が期待されます。

フォワードハーフシッティング:トレーニングする脚(前方)のでん部(お尻)で座り、脚を前後に開いた姿勢をとる。前方の脚は、踵が浮かないように接地し、すねの骨は少し前に倒します。背中が丸くならないように、また体が側方に倒れないように真っ直ぐに維持しながら、体幹を前に倒す。この時、前方の脚の太ももの前の筋肉(大腿四頭筋)に力が入ることを感じる。後方の脚は動画のように、太ももが床に向かって真っすぐになるような位置にし、足の親指と小指の付け根で踏ん張る
バックワードハーフシッティング:トレーニングする脚(後方)の反対側のでん部(お尻)で座り、脚を前後に開いた姿勢をとる。後方の脚は、踵を浮かせて足の親指と小指の付け根で踏ん張る。やや背中が丸くなっても良いので、あごを引いておなかに力を入れながら、腰が反らないように体を後ろに倒す。このとき、後方の脚の太ももの前の筋肉(大腿四頭筋)に力が入ることを感じる。筋肉への負荷が強いので、体を倒す量は少しずつ増やしていく

全世代型エクササイズで
健康寿命が延びる!?

ヒトの身体の仕組みや動き方を力学的に研究するバイオメカニクス。臨床での深い洞察とバイオメカニクスを掛け合わせた見地から編み出されるトレーニング法は、身体の機能回復やスポーツ外傷・障害の予防だけでなく、競技パフォーマンスアップや健康増進の領域での活躍も期待されます。
人生100年時代、誰にとっても安全で効果があり、シンプルな全世代型エクササイズのニーズは、今後ますます高まってくるはず。抵抗なく始められ、気軽に続けられるエクササイズの開発は、健康寿命延伸の強い味方といえそうです。

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