MATSUURA Hideharu
工学部 電気電子工学科 教授
大学院 工学研究科 電子通信工学コース 教授
博士(工学)
京都大学
人と環境に優しい半導体デバイス
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趣味は家庭菜園。常に旬の野菜を収穫できるように、玉ねぎの後はトマト、その後は大根、などと栽培順を考えるのが楽しみです。犬の散歩の後で庭に水やりをするのが、朝のルーティーン。採れたてのむかごで作る秋のムカゴごはんは絶品です。妻と愛犬との旅行も楽しみのひとつです。

半導体の電気特性を調べ、新たな可能性を探り出す

さまざまな物理現象の「なぜ」を解き明かすのが理学的アプローチです。そして、物理現象を「いかに」応用するかが工学的アプローチです。
松浦研究室は、半導体の電気特性を軸として理学・工学の双方からアプローチ。次世代半導体の検証や極微量有害物質を非破壊で検出するデバイス開発など、幅広く研究活動を展開しています。

次世代半導体を用いたパワー半導体デバイス実現に向けた 
国家プロジェクトに参画 
シリコンカーバイドの電気特性を調べる

私たちの使うさまざまな電気機器のほぼ全てにシリコン半導体が使われています。シリコン(Si)は熱に弱く、100℃以上では正常に動作しなくなります。そのため冷却装置が不可欠ですが、設置スペースや冷却するエネルギーも必要となるため、たとえば電気自動車などのコンパクト化・省エネ化にとって大きなデメリットです。そこで熱に強い次世代半導体材料として注目されるのがシリコンカーバイド(SiC)です。

松浦研究室は、国家プロジェクト「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」の一環として、産業技術総合研究所からの委託により「ホール効果測定」を用いて、超低損失パワー半導体デバイス用シリコンカーバイドの電気特性を調べ始め、現在も産業技術総合研究所と共同研究を行っています。ホール効果測定では、p型半導体n型半導体かを判定するpn判定、キャリアの密度、キャリアの移動度を判定できます。

あるとき、実験を繰り返す中で不可思議な現象が発見されました。通常はp型半導体の場合は、 ホール係数は正になります。ところが「高濃度Al添加4H-SiC」では、ホール係数が負となる温度範囲が存在することが明らかになりました。このことは、シリコン半導体では隠れていた物理現象が、シリコンカーバイド半導体によって見えてきたということになります。

松浦教授は、どのようなメカニズムでこのような現象が起こるのかを解明する物理モデルを構築 (IOP Science[1] )(IOP Science[2] )。こうした新しい物性の発見が、テクノロジーにおける新たな可能性の種になります。

正の電荷である正孔による電流(I)の場合、図のように磁束密度(B)が印加されるとフレミングの左手の法則に従って正孔が上側に集まり、ホール電圧(VH)が正になる。負の電荷である電子による電流の場合、電子が上側に集まるため、VHが負になる。ホール係数(RH)は、電流値I、磁束密度B、厚さdと測定されたVHから求められる
シリコンでのパワー半導体デバイスの省エネ化とシリコンカーバイトへの応用
Siでのパワー半導体デバイスでは、大電流を流せるサイリスタ・GTOの高周波化と高周波で動作するパワーMOSFETの低抵抗化(省エネ化)を叶えるIGBTが現在主流であり、電車・電気自動車・エアコン等で使われている
パワーMOSFETからIGBTへ
パワーMOSFETでは電子だけが電流に寄与するが、IGBTでは電子とともに正孔も電流に寄与するようになり、同じサイズで大電流が流せるようになる。つまり、抵抗が低くなり、省エネ化が可能になる
シリコンからシリコンカーバイトへ
更なる省エネ化を目指してSiCでのパワーMOSFETの開発が行われ、2020年7月からは新幹線N700S系に使われている。SiCの絶縁破壊電界強度がSiより10倍大きいため、ドリフト層の抵抗率を下げられ、さらにドリフト層の厚さを薄くできるので、抵抗値を激減でき、省エネ化できる。シリコンでのパワー半導体デバイスの流れからわかるように、SiCでIGBTが実現できれば、更なる省エネ化が可能になり、SiCでのIGBTの開発が必要。大きな変更は、パワーMOSFETのドレインであるn+層をIGBTのコレクタであるp+層への変更であり、SiCのp+層の低抵抗化を目指した研究が必要となるため、松浦研究室では電気特性を詳細に調べている

収穫した米に含まれるカドミウム検出素子を開発! 
低価格で持ち運べるから、1農家1台を実現

松浦研究室では、農家をサポートするデバイス開発にも取り組んでいます。

米の安全基準は「1㎏あたりのカドミウムの含有量が0.4mg以下」で、全体重量の100万分の1以下です。こうした微量物質は「蛍光X線分析」で検出できます。物質にX線を当てると、その元素固有の蛍光X線(Kα線とKβ線)を出します。米にX線を当て、カドミウム固有の蛍光X線が出ていれば、カドミウムが含まれているとわかります。

この手法は以前から活用されていましたが、検出機器が大型かつ高価なため、複数の農家から集められた米を調べるのに使われます。もし小型で持ち運ぶことができ、かつ低価格な検出機器があれば、各農家が個別にチェックできるため、基準を超えるカドミウムが検出されても廃棄する量に無駄が出にくくなります。

松浦研究室では、この小型のカドミウム検出装置に対応するX線検出素子を研究。蛍光X線で発生する電子数を正確に把握しなければ、カドミウムの有無は判定できません。蛍光X線が透過できないようにシリコンの厚さを検証し、電子が一箇所に集まるようにデバイスをすり鉢状の構造にして水平な場所をなくすなど、シミュレーションを重ねています。

この「低価格可搬型半導体検出器」はアメリカで特許を取得済み。研究室ではさらなる改良を行っており、世界中の米農家の定番マシンになる日も近そう

交通犯罪防止や考古学にも!
半導体デバイスは追跡の名人

カドミウム検出と同じX線検出素子のメカニズムを使えば、当て逃げした車の塗料から車種を確定したり、古代エジプトなどの文化遺産に使われた顔料の運搬ルートを探ったりすることが可能に。いずれも暑い場所で使えるようにシリコンカーバイド半導体なら、よりスムーズに仕事が進みそうです。

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