数学には「○○予想」と呼ばれるものがあります。ある数学者が「まだ証明はできていないけれど、きっとこうなるはずだ」と立てた仮説のことで、「リーマン予想」や「P≠NP予想」がその代表です。数学には、こうした未解決問題が数多く存在しています。
若林准教授は、そんな未解決問題のひとつである「ザギエ予想」について、2つのアプローチから取り組んでいます。
自然数の無限和(限りなく足し合わせた結果)は無限大になります。では、自然数の逆数の無限和は? これも無限大になります。
さらに、自然数の逆数のべき乗の無限和はどうなるでしょうか。
これも無限大になるかというと、そうではありません。逆数のべき乗の場合、その無限和は無限ではない数に収束します。そして、数学者オイラーは1735年、この無限和を円周率πを使って非常にシンプルに記述できることを発見しました。
300年近くも前に、手計算で上記の美しい「オイラーの公式」が導き出されたのは驚くべきことですが、解明されたのは式を見てわかる通り偶数乗の時のみでした。
その後、数学者リーマンが、このオイラーの公式をゼータ関数として考案し、さらに無理数を含む実数に広げ、リーマンゼータ関数として下記のように記述します。
そして、このリーマンゼータ関数を、一般化したものを多重ゼータ値と呼び、以下の関数で表します。
若林准教授は、この「多重ゼータ値」を研究しています。多重ゼータ値には、さまざまな関係式が成り立つと予想されており、最も有名なのは1990年代には数学者ザギエが提唱した次元予想です。
ザギエ予想はリーマン予想よりも難問ともいわれています。簡単にいうと、たとえば上記で重さ12の許容インデックスは1024個ですが、本質的に意味のあるものは12しかないはずだという予想です。その意味のあるものをあぶり出すための関係式の発見に向けて、日々研究を続けているのです。
また同時に、若林准教授は多重ゼータ値に対し、異なる面からのアプローチも行っています。それが、根付き木写像と呼ばれるグラフを使った方法です。コンヌ‐クライマーによる根付き木のホップ代数が、多重L値の関係式に関わっている可能性について調べているのです。
現在もなお、奇数点におけるリーマンゼータ値にはまだ未解明な部分が数多くあります。しかし、多重ゼータ値や多重L値から新たな関係式が発見されれば、この問題についても、いずれ解ける日が来ると予想されます。
多重ゼータ値の全関係式を与えているだろうと予想されている関係式の一つとして一般複シャッフル関係式と呼ばれるものがあります。また一方で、多重ゼータ値には双対関係式と呼ばれる有名な線形関係式があります。
この双対関係式は、一般複シャッフルに含まれているということが一般には証明されていません(双対関係式導出問題)。根付き木写像の研究を進めることで、この多重ゼータ値の研究における問題の一つである「双対関係式導出問題」が解決できるかも知れません。
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