理工学の知識や技術を、診断や治療など医療分野に応用するのが医用工学分野です。
長倉研究室では画像処理技術やものづくりの技術を生かして、医療者や患者さんのニーズに応える新しい医療機器や診断技術を開発。がんや糖尿病など幅広い分野で、医療の進化を支えています。
胃がんなど消化管の早期がんでは、内視鏡で見ながら、がん細胞におかされた粘膜をはぎ取る治療法が確立しています。身体への影響が少ないメリットのある治療ですが、がん細胞が粘膜層より下の層まで達していないことが条件。進行度の診断が重要ですが、見極めにはある程度の経験が必要です。
そこで長倉研究室では、内視鏡で撮影された臓器の画像を、画像処理によって形、輝度、色などを詳細に分析。特に粘膜より下の層を認識できる波長の光を使った計測によって、病変を自動的に認識する技術を開発しています。
こうした技術は、内視鏡検査によるがん診断の誤りを減らすことにもつながります。また、腹腔鏡手術中の微量な出血の検出など、人の目にはとらえにくい変化をとらえる技術としても期待されています。
長倉教授は医用工学の研究者であると同時に、医師でもあります。医師として最初に勤めた病院の院長から薦められて始めたのが、糖尿病治療用デバイスの研究です。医療現場では、当時より糖尿病の治療法としてインスリン療法がおこなわれていました。これは、注射器などを使って体内に直接インスリンを補充し血糖をコントロールする方法です。
長倉教授は、食後の時間を見て自身で針を刺すという従来の治療法とは、全く異なる新しいデバイスを開発しています。この治療用デバイスの基本原理は浸透圧。体内に埋め込んだ小さなチップが、食事の前後で変動する血糖値に合わせて、自動でインスリンを注入してゆく仕組みです。このデバイスは、チップを皮下に埋め込めば、あとは電力も制御も不要という簡単でエコなシステムが評価され、グッドデザイン賞の中で経産大臣賞を受賞しました。
チップの開発には、レーザー光で樹脂を固めるマイクロ光造形の技術を活用。最小2ミリ角という微細サイズのチップの試作も既に成功しています。治療用・医療機器としての認可を得るには、さらなる臨床試験が求められますが、治療法として確立されれば糖尿病患者の治療ストレスは大きく軽減できます。
長倉研究室では、足の静脈の計測技術の研究も進めています。画像処理技術を駆使して超音波診断画像から静脈の特性を調べ、超音波画像で見えている以外の情報をえたり、足や腕に微弱な電流を流すことで血管内の状態や血流、血圧を計測する方法の開発です。
たとえば、足の静脈にできた血栓が肺に飛んで血管を詰まらせ、肺血栓塞栓症(エコノミークラス症候群)を発症することがあります。こうした突発的な病気の原因となる静脈血栓を予防するには、血栓ができやすい体調や体質かどうかを調べておくことが重要です。医用工学技術の進歩で、従来とらえられなかった身体の情報が得られれば、誰もが自分に合ったヘルスケア、予防ケアができるようになります。
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