UMIMOTO Koichi
医療健康科学部 医療科学科 教授
大学院 医療福祉工学研究科 医療福祉工学専攻 教授
博士(工学)/ 薬剤師 / 臨床工学技士
大阪府立大
環境にやさしい機能水の生成と医療応用技術

定年後は南フランスに移り地中海を見ながらワインを傾け、ゆっくりと美術館巡りをして過ごすことを楽しみにしています。

患者をケアする目線で
臨床現場の課題に挑む

1945年、世界で初めて急性腎不全患者の救命に成功した人工透析治療は、1980年代に確立した後も生体適合性を高める努力が続けられています。一方で、在宅ケアを受ける患者数の増加に伴い関心が高まっているのは、感染予防の技術です。
海本研究室では、こうした臨床の課題を解決するための研究を続けています。

より人にやさしい人工透析へ 
アレルギーを防ぐ測定システム

重い腎臓病の患者さんに対して行われる血液透析は、腎臓の働きの一部を機械で補う方法です。この機械はダイアライザと呼ばれ、人工膜を使って血液中の老廃物や余分な水分を取り除き、きれいになった血液を体内に戻す働きをしています。

海本研究室では、より人にやさしいダイアライザの研究開発を行ってきました。開発テーマの一つは、人工膜であるPS(ポリスルホン)膜を作る際に添加する親水化剤のPVP(ポリビニルピロリドン)が溶け出しているかどうかを素早く判定する方法の検討です。

PVPはPS膜の透析機能、生体適合性を高めるために不可欠ですが、一方でアレルギーの原因物質であることが指摘されています。海本教授は、透析患者さんたちの中で起きているアレルギーの問題だけでなく、生きるために必要な透析が身体的-心理的負担を強いている現状を少しでも改善したいと考え、この研究に取り組んできました。

海本教授は実験により、透析前にダイアライザを生理食塩水で洗浄する準備段階で、すでにPVPが洗浄液中に溶け出していることを確認。そこで、洗浄液の中に溶け込んでいるPVPをリアルタイムで測定できるシステムを構築し、アレルギー症状のある患者さんの体内にPVPが流入するのを防ごうと考えました。PVPの測定には、一般的に試薬を使うことが多いのですが、判定までに時間がかかるのが難点。そこで海本研究室では、PVPが紫外光を吸収する性質があることに着目し、紫外線を当てるだけでリアルタイムにPVPを測定する方法を開発しました。

血液透析の仕組み

高い殺菌力を発揮し
使用後は水に戻る電解水やオゾン水

海本研究室では、感染予防の基本である手洗い・除菌の基となる電解水、オゾン水など機能水の研究にも力を入れています。電解水やオゾン水は、水道水や食塩水を電気分解して生成される高い殺菌能力を持った水。使用後は元の水に戻り生成や廃棄が簡単なことから、在宅ケアなどの分野で注目されています。

電解水はpHによって強酸性、微酸性、中性に分けられます。このうち微酸性、中性は強酸性ほど殺菌力が強くはないものの持続して効果を発揮し、使用用途も幅広いのが特徴。しかし生成に塩酸を使うため、簡単に生成できませんでした。

海本研究室では、食塩水のみを使って微酸性、中性電解水を生成する装置を開発。大腸菌、ブドウ球菌、セレウス菌の殺菌に有効であることを検証し、特許を取得しています(図左)。さらに、除菌力が高く生成が容易なオゾン水生成についても研究。安全で効率よくオゾン生成が可能な電気分解方式の放水型オゾン生成器を開発中です(図右)。


食塩水から強酸性、中性電解水を生成する装置と水道水から生成する流水型オゾン水装置。いずれの装置で生成した水も大腸菌、ブドウ球菌、セレウス菌の3種の細菌に対して強い殺菌効果が認められた

臨床と研究室の連携で
患者さんファーストの医療へ

薬学を学び新薬開発に携わりたいと考えていた海本教授は、臨床実習で透析医療の高度化をめざす病院長と出会い、人工透析の研究にのめり込みました。さらなる研究向上を目指して渡仏し、Paris大学N.K.Man教授の教えを受け研究は加速。
本学教員になってからは、臨床工学士でもある大学院生(社会人)を指導することで、現場の課題解決を支援してきました。臨床と研究室の境を超えて課題解決に挑むことが、さらなる患者さんファーストの医療を実現してくれそうです。

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