「すべきこと」と「したいこと」が目の前にある場合、前者を先にした方が良いとわかっていても、つい後者を選んでしまう経験は、誰にもあるでしょう。こうした誘惑を断ち切って自分の行動を良い方へ向けることを「セルフコントロール」といいます。
安達准教授は、セルフコントロールが働くメカニズムや、セルフコントロールをうまく取り入れる方法についての研究に取り組んでいます。
遊びに出かけたいけれど、先に課題をやってしまおう。こんな風に、誘惑を乗り越えて自分の行動を望ましい方向へ変えようとすることを、心理学では「セルフコントロール」といいます。つまり、自分で自分を管理することです。怒りの感情を抑えて冷静に話す、お酒を飲み過ぎないといったセルフコントロールは、社会生活を送る上でも大切です。
安達准教授は国内の成人約100名にアンケート調査を実施し、セルフコントロールの実態の解明を試みています。その結果、課題や仕事に対するコストが少ない時には、セルフコントロールの低い人も高い人も早めに課題にとりかかる傾向がみられました。しかし、コストがかかると、セルフコントロールの低い人は課題を先延ばし(後回し)にする傾向があるとわかりました。
また、興味がもてない授業のレポートは後回しになりがちですが、さらにその授業の有用性が低い(役に立たない)と感じてしまうと、逆にレポートを早く終わらせようとすることがわかりました。課題を過剰に早く片付けてしまうことも、後回しと同様にセルフコントロールの欠如とかかわっていることが推測されます。
この対策の一つは、すべきことを小さなステップに分けること。例えば「大学卒業」といった大きな課題ではコストが大きいため、卒業するための単位を取得する、そのために前期はこの授業に出席する。また授業で出された課題やテストに向けて、今週中にレポートの課題となっている本を図書館でリストアップする。という風に今期、今週、今日の目標へと落とし込む方法です。セルフコントロールには、このように目標を細分化する計画の立案が重要です。
近年、教員には「主体的・対話的で深い学び」を促す授業づくりや指導が求められています。安達准教授は、教員という立場から、特に学習のセルフコントロールにも注目しています。学習のセルフコントロールがうまくいけば、学校への適応にもつながります。
学習のセルフコントロールには、例えばテストの点数といった「結果重視」から、その科目にどう取り組んだかという「プロセス重視」への考え方の転換が重要になります。「プロセス」を認め合えるクラスメイト同士でのサポートや、プロセス重視という考え方を分かちあえる家庭環境も必要です。
そして教員は、生徒が学習の進め方や動機づけを自らコントロールし、PDCAサイクルを回すことができるように指導する必要があります。具体的には、学習の進め方を教える、声かけを行う、モチベーション向上のしくみを作るなどです。
しかし、そうした環境を整えるだけでは不十分です。生徒一人ひとりの特徴によって、どのような学習が望ましいかも変わってきます。リサーチの結果では、仮想的有能感が高く孤独を感じている生徒は、対人コミュニケーションの一つとして教員に援助を求めて学習をセルフコントロールしていることがわかりました。今後は生徒一人ひとりの特徴に応じた効果的な学習支援の方法を探っていく予定です。
セルフコントロールとは、他者と協調しながら、自主的・計画的に行動する力を身につけること。他者に依存せず、自立することは、心の健康にもつながります。
また、仕事も状況に応じた進め方を考えられるので、多様な働き方が実現。セルフコントロールを身につけることは、自立し、お互いを思いやれる社会を実現するための鍵になりそうです。
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