研究では中国語や日本語、韓国語をフル活用。自身は内モンゴル生まれの中国人。モンゴル人のルーツを持ちながら、モンゴル語が話せないもどかしさも。日本での暮らしは30年を超え、温泉では故郷も研究も忘れて寛ぎます。東北の温泉は岩手県立大学勤務時に、ほぼ制覇。最近は山登りも始め、芦屋から有馬温泉までの18キロを踏破しました。
日本、韓国、中国という東アジアの3国は、様々な共通点や相違点を持っています。
王准教授は、社会学者として東アジアの社会・文化を比較研究してきました。中国で新聞記者をしていた経験を活かして、フィールドワークで多くの人に会い、自ら体験することを重視した調査活動を続けています。
5年間のジャーナリスト生活を経て来日した王准教授。日本の大学院に進学し、日中韓の比較研究を始めました。新聞研究から女性記者の比較調査へ、博士論文ではさらに領域を拡大して宗教・言語・風土という文化を形成する土台から三国を総合的に比較。
論文作成にあたり、数多くの先行研究を参照しつつ、独創的な意見や解釈を展開。三国の文化の違いを日本は島、韓国は半島、中国は大陸という異質な地理的条件に由来するととらえ、それぞれ「受信文化・融合文化」「通路文化・徹底文化」「発信文化・併存文化」であるというユニークな見方を提起しています。比較対象の領域は幅広く、衣食住や祭祀など生活様式・文化についてもジャーナリストの視点を生かした丹念な調査で成果を上げています。
本学に着任してからは、社会学に加えて母語である「中国語」の教科目を担当。「教える」というプロセスを通して、東アジアにおける「言語と価値観」や「言語と社会構造」の違いにも関心を抱くようになりました。現在は、敬語による国民性と対人コミュニケーションの違い、ことわざによる女性観の違いなどについても比較研究を行っています。また、コロナ禍の際に欧米と東アジアでは隔離対策に大きな違いがあったことにも着目。東アジアの人々の背景にある死生観の違い、コロナ禍による変化などを調査しています。
王准教授は、大学で履修する中国語のオリジナル教材開発にも力を入れています。
日本語と中国語はその構造に違いがあります。日本語は膠着語と言って、単語に特有の意味や機能を持った言葉、たとえば助詞の「てにおは」などを結び付けて単語と単語の関係性を表す構造の言語です。一方、中国語は孤立語と言い、単語だけで文が構成され語順が文法的な機能を果たします。
王准教授は、日本の中国語学習者が母語と大きく構造の違う中国語を効率よく学ぶ方法を提案しています。まずシンプルで短いフレーズをいくつも覚えさせることで主語、動詞など重要な品詞の正しい語順を感覚的に身につけ、慣れて自然に口を突いて出るようなったころに文法を教えるというのが基本的な考え方。この従来とは違う発想でまとめたテキストは、大きな反響を呼びました。
その後も語順中心の学習を中心にすえながら、独自の着眼点で教材の開発を続けています。2022年3月に出版したテキストは「聞く、話す、読む、書く」の4技能に「翻訳」を加え、5技能を修得できるよう構成。同じ漢字でも意味の違う言葉が数多くあることから、中国語検定で求められる正しい翻訳能力を身につけられるよう工夫しています。
また、学生たちが外国語の学習を通じて、自己発信能力を鍛えられるよう教材づくりにも力を入れています。テキストを質問形式にし、自分の国や好きなもの、気持ちなどを答えさせる設問を用意。問題を解きながら、異文化コミュニケーションにとって自分の考えを相手に伝えることがいかに重要かを理解でき、自己発信能力を主体的に身につけられるよう配慮しています。
モンゴル民族としてのルーツを持つ王准教授によると、「モンゴル語には馬の毛色の表現が300種類以上ある」のだそう。放牧している馬が逃げたとき、みんなで協力してその馬を探すには、微妙に違う毛色を特定する表現が必要だったのかもしれません。
外国語を学ぶ意味の一つは、このような異文化の違いに触れること。自分と違う価値観があることを知り、刺激を受けたり、理解しようとすることで、考え方が柔軟になり人生が豊かになってゆくのです。
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