工学部基礎理工学科環境化学専攻 湯口宜明教授とMP五協フード&ケミカル株式会社(大阪市北区/代表取締役社長 脇田英充)は、日本応用糖質科学会2025年度大会(第74回)にて、冷菓で広く使用されている増粘多糖類である、タマリンドシードガムとローカストビーンガムの室温下の保型性向上効果に関して、今回初めて、構造解析からのアプローチで、分子間相互作用による冷菓での保型性の機構を明らかにしました。本成果は、アイスクリームなどの冷菓の保型性保持など食品分野での応用が期待されます。
【本件のポイント】
■相乗効果を確認
キシログルカン(XG)とローカストビーンガム(LBG)の混合系において、冷凍・解凍を繰り返すことで強固な三次元ゲルネットワークが形成される現象を確認。
■電子顕微鏡観察による可視化
SEM(電子顕微鏡)観察により凍結乾燥後の試料で網目構造を観測。冷凍・解凍サイクル回数の増加に伴い、網目サイズが縮小し、ネットワーク密度の増加が明らかに。
■小角X線散乱法(SAXS)による解析
小角X線散乱(SAXS)測定において、冷凍・解凍の繰り返しにより散乱強度が上昇し、架橋領域の増強および構造秩序性の向上を定量的に実証。
【本件の概要】
食品分野において、冷凍・解凍過程での氷結晶の成長や融解は、テクスチャーや保型性の劣化を引き起こす重要な課題とされています。特に乳化系デザートやアイスクリームにおいては、安定的なゲル化挙動を利用した品質保持技術が求められています。LBGは単独でも冷凍・解凍によりゲルを形成することが知られていますが、XGとの複合により顕著な相乗効果が発現する点が注目されてきました。本研究では、タマリンドガム由来のXGを用い、SEMおよびSAXSを組み合わせた多角的アプローチにより、分子間相互作用に基づくゲル形成メカニズムの解明を試みました。SAXS測定の結果から、会合形成が観察され、会合体はある一定の大きさになり、その会合体の数が増加することでゲルを形成していると推測されました。
今回の研究成果は、冷菓や冷凍食品の安定化処方設計に資する基礎知見となります。特にアイスクリームなどの冷菓分野における保型性保持・食感制御技術に直結し、食品メーカー各社の製品開発に幅広く応用可能です。さらに、今後は他多糖類との複合利用や添加剤設計への展開が期待されます。
【研究発表】
タイトル:キシログルカンとローカストビーンガムの相互作用ゲルに関する研究
発表者:
湯口宜明(大阪電気通信大学基礎理工学科環境化学専攻 教授)、早瀬修平、鈴木瑠莉、山中美月(大阪電気通信大学工学部環境科学科)、大林祐貴、鈴木夢生、大和谷和彦(MP五協フード&ケミカル株式会社)
【研究概要】
目的:
キシログルカン(XG)とローカストビーンガム(LBG)の混合水溶液を冷凍・解凍処理を行うとゲルを形成する。LBG自体も単独で冷凍解凍処理を行うとゲルを形成するが、XGとの混合により相乗効果があり、XGとLGB間の相互作用が示唆される。この効果はアイスクリームの保型性保持としての処方に応用されており、そのメカニズム解明が待たれている。本研究ではXGとしてタマリンドガム(TSG)を用い、冷凍解凍処理によるゲル化挙動の観察と走査型電子顕微鏡(SEM)及び小角X線散乱法(SAXS)を用い、構造的にアプローチした結果を報告する。
方法:
TSGおよびLBG試料はMP五協フード&ケミカル株式会社製のものを用いた。SAXS測定は高エネルギー加速器研究機構のPFのBL-6Aにて実施した。
結果:
XGとLBG混合含有した冷菓の溶け落ち試験を行い他の多糖類と比較した結果、相乗効果の有効性を観測することができた。系を単純化したXGとLBG混合水溶液について調べた結果もゲル化の相乗効果が見られた。ゲルを凍結乾燥したものをSEM観察すると網目が観測された。冷凍・解凍プロセスの回数を増やすと網目サイズが小さくなった。またSAXSでの測定でも冷凍・解凍プロセスの回数により強度上昇がみられ、架橋領域の増強が観測された。